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緊急事態宣言で政府と東京都の思惑にずれか

2020/04/03

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緊急事態宣言の発令を政府に促す小池都知事

東京都の小池知事は4月3日の記者会見で、政府が改正新型インフルエンザ特措法に基づく「緊急事態宣言」を出した後の都の対応について大まかな方針を説明した。小池知事は「都民のみなさんには、特措法に基づく外出自粛要請をするとともに、施設やイベントの主催者に対しては使用の制限、停止などを要請することになる」と述べた。他方、「食料品、医薬品などの生活必需品、銀行、証券取引など社会、経済生活を維持するサービスは、衛生管理をした上で営業いただく」としている。

さらに小池知事は、「国に乗り出していただくのは、大きなメッセージになる」として、改めて緊急事態宣言の発令を政府に促している。他方で、緊急事態宣言の措置が経済に与える打撃については、「緊急事態宣言と過去最大規模の経済対策とをセットにすることで、大きなパワーになる」として、経済対策によって経済への悪影響を緩和することができるとの考えを述べている。

小池知事は、新型コロナウイルスの感染拡大を抑えることを最優先とし、そのための東京都としての独自の対策を進めたいと考えている。しかしながら、従来の外出自粛要請などには法的根拠がないことから、まず、政府に緊急事態宣言を出してもらい、法的根拠を得てから、より実効性の高い対策を打ち出したい考えなのだろう。

具体的な措置を決めるのは都知事

緊急事態宣言が出された後の外出自粛要請については、改正新型インフルエンザ特措法第四十五条第一項は、以下のように定めている。

(第四十五条) 特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等緊急事態において、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため必要があると認めるときは、当該特定都道府県の住民に対し、新型インフルエンザ等の潜伏期間及び治癒までの期間並びに発生の状況を考慮して当該特定都道府県知事が定める期間及び区域において、生活の維持に必要な場合を除きみだりに当該者の居宅又はこれに相当する場所から外出しないことその他の新型インフルエンザ等の感染の防止に必要な協力を要請することができる。

重要なのは、外出自粛要請の具体的な内容を決め、それを住民に要請するのは、政府ではなく、政府が緊急事態宣言の対象区域に指定した都道府県知事、東京都であれば小池知事なのである。

経済活動への悪影響を警戒する政府

ところで安倍首相は、4月2日の衆議院本会議で、「現時点では、まだ全国的かつ急速なまん延という状況には至っておらず、ぎりぎり持ちこたえている」と述べ、引き続き法律に基づく緊急事態宣言を行う状況に至っていない、という認識を繰り返し示している。こうした安倍首相の発言からは、できれば緊急事態宣言を発令したくない、という思いが滲み出ているように感じられる。

安倍首相が発令に慎重なのは、それが、明らかに経済活動にかなりの打撃となるためだ。安倍首相は、仮に緊急事態宣言が発令されても、法体系の違いから欧州のようなロックダウン(都市封鎖)にはならない、と説明している。しかし、緊急事態宣言の発令によって外出自粛要請などに法的根拠が加われば、企業や国民の行動にはかなりの追加的な影響を与えるはずだ。

企業や国民が政府の想定以上に過剰に、緊急事態宣言の発令に反応してしまう可能性もあるだろう。海外のロックダウン(都市封鎖)とそれほど大きくは違わない規模で、経済への打撃が生じるリスクについても、考えておかねばならない。

日本経済への打撃を左右する具体策を決めるのは都知事

小池都知事も安倍首相も、ともに感染抑止に効果的な対策を打ち出したいと考える一方、経済への打撃はできるだけ小さくしたい、と考えている。しかしそれは無理なことであり、いいとこどりはできないのである。

小池都知事が主張しているように、緊急事態宣言のもとでの外出自粛など個人消費を強く抑える措置が経済に与える悪影響を、経済対策を重ねて打ち出すことで緩和することは、実際には難しいだろう。

そして、安倍首相が強く警戒する、経済活動への影響がどの程度のものになるかは、緊急事態宣言の発令後の、小池都知事による外出自粛要請の具体的な打ち出し方を見ないと推し量ることができない、という面がある。そうした不確実性のもとで、感染拡大抑止の効果と経済活動への悪影響の双方のバランスを考慮して、緊急事態宣言の発令の是非を検討する、という極めて難しい判断を安倍首相は強いられているのではないか。

このように、国と東京都の重要な意思決定が、互いの行動によって強く制約されることから、独自の意思決定が難しい、という状況に陥っているように見える。それは、政府と東京都とがもっと緊密に意思疎通をとれば、緩和される問題かもしれないが、現状ではそれができていないようにも見うけられる。

そして、ここには、改正新型インフルエンザ特措法の「緊急事態宣言」に関わる手続き規定上の問題があるように思われる。さらに、地方分権のあり方という、より大きな問題が、新型コロナウイルスの問題で浮き彫りになった、という側面もあるのかもしれない。

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