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議論が進む政府の緊急経済対策

2020/04/06

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優先順位と時間軸に配慮した5本柱は妥当

政府は与党との調整を経て4月7日にも緊急経済対策を閣議決定する。その概要が、各種報道によって次第に明らかになってきた。

対策は、(1)感染防止や医療体制の整備、(2)雇用維持や事業継続、(3)収束後のV字回復、(4)強靱な経済構造の構築、(5)予備費の創設の5本柱で構成するとされる。

この5本柱は、その順番が重要であり、政策の優先順位と時間軸を意識して示されているとみられるが、概ね妥当なものではないか。最も優先順位が高いのは、(1)の感染防止や医療体制の整備である。政府にとって、新型コロナウイルスから国民の健康と命を守ることが最も重要な政策であることは間違いない。また、この問題が解決しない限り、経済活動が正常化することはないのである。

そのうえで、新型コロナウイルス問題で打撃を受ける国民の生活を支えることが重要だ。新型コロナウイルス問題によって、日本経済を支える企業や労働者が、その経営基盤、生活基盤を失ってしまわないようにすることが重要だ。新型コロナウイルス問題が解決されるまで、サプライサイド(供給側)が壊れないように、それをしっかりと支え、日本経済がいずれ元の姿に戻るようにする政策が必要なのである。これに相当するのが、(2)雇用維持や事業継続、だ。

他方、政府が新型コロナウイルスの感染拡大抑止のために、イベント自粛要請、東京都や大阪府が外出自粛要請を実施している中で、政府が個人消費の刺激を促す政策を講じることは、それらの措置に矛盾してしまう。また、その効果も限られるだろう。

そのため、(3)収束後のV字回復、として、景気刺激策を、新型コロナウイルス問題収束後に重点的に実施する施策と位置付けたことは正しい。

「規模先にありき」の感は否めない

また、新型コロナウイルス対策に税金を投入する際には、それが一時的な対策であるのみならず、長い目で見て日本経済、国民生活の改善につながる「ワイズ・スペンディング(賢い支出)」となることが望まれる。これを示唆しているのが、(4)強靱な経済構造の構築、である。

さらに、事態は刻一刻と変わることから、状況に合わせて柔軟に財政措置を講じることが重要だ。その点から、(5)予備費の創設、は必要である。

緊急経済対策は、2019年度補正予算と2020年度当初予算に既に含まれる事業規模26兆円の経済対策と合計して、リーマン・ショック時の56兆8千億円を上回る過去最大の規模とする方針を、政府は固めている。つまり、今回の経済対策の規模は30兆円超となる。

対策の規模が先に決まり、その後に具体的措置を議論するという順番になってしまった点には問題を感じる。本来は、国民の税金の投入を伴う必要な対策を吟味して積み上げていく中で、全体の規模が決まるのが筋だろう。

経済対策の概要は次第に明らかになってきたが、それぞれの項目の規模は明らかではない。規模を大きくするために、事態が収束してからでないと支出しない、(3)収束後のV字回復に相当規模の予算が配分される形となる可能性もあるのではないか。その場合、経済対策による景気浮揚効果には、当面のところは期待すべきでないだろう。

また、事態は刻一刻と変化することから、計上された予算を別項目の支出にも柔軟に援用できる工夫が欲しいところだ。

30万円の給付金は自己申告制

今回の経済対策の中で最も注目を集めているのが、新型コロナウイルスの感染拡大により収入が減った世帯への現金給付である。給付額は1世帯当たり30万円とすることを、政府と与党は合意している。給付対象は高額所得者を含むすべての世帯とはせず、減収後の月収が一定の基準(住民税非課税世帯の所得水準か)を下回る世帯に対象を絞る。最も困っている人に給付を集中させることが重要であることから、この措置は妥当だろう。

支給対象とする月収の水準について、政府は夫婦2人の世帯の場合、25万円未満とする案などを与党側と調整している。また、生活資金がかさむ子育て世帯は子供の人数に応じて基準を緩め、生活資金が少なくても暮らせる単身の場合は厳しくする。子供1人あたりの増減額はまだ固まっていない。

対象世帯は全国5,300万世帯のうち、約1,000万世帯が想定されている。そうした世帯に30万円ずつを給付すれば、支給総額は3兆円となる計算だ。リーマン・ショック後に実施された定額給付金(国民一人当たり1万2,000円の給付、総額約2兆円)と比べ、メリハリの利いた給付になると言える。

給付金の景気刺激効果は、給付金の半分程度が消費に回る(消費性向0.5)との前提で計算すれば、GDP押し上げ効果は約1.5兆円、約0.27%となる。

給付金に所得制限をかける場合には、政府は前年度の各世帯の所得を確認した上で給付することになる。それでは時間がかかってしまうことから、市町村の窓口への自己申告制に決めたと見られる。申告する者は、過去の所得の実績と足もとでの所得減少を証明する書類を提出することになるが、提出された書類の妥当性は各窓口での判断となるのではないか。その場合、大きな混乱が生じる可能性があるだろう。

その他の経済対策の概要

最後に、世帯への給付金以外の対策の概要について、現時点でメディア報じられている内容(日本経済新聞など)を、冒頭で示した5本柱に従って確認しておきたい。

(1)感染防止や医療体制の整備
全国で感染症の病床を拡充し、重症者の治療に必要な人工呼吸器や人工肺を増やす。新型コロナウイルスに対する治療効果が期待される、抗インフルエンザ薬「アビガン」の増産を支援する。インフルでは40錠とされる1人あたりの投与量が、新型コロナの場合は120錠程度と3倍必要となる。現在の備蓄はインフル患者200万人分であるが、20年度内に現状の最大3倍に積み増し、200万人の新型コロナウイルス患者に対応できるようにする。
また、診療報酬を特例で増額し、医療機関が新型コロナ患者を受け入れるインセンティブを高める。さらに、飲食店への高機能換気設備の導入を支援するほか、学校での空調・換気設備やトイレなどの改善も支援する。

(2)雇用維持や事業継続
児童手当の受給世帯に対して、児童1人あたり1万円を上乗せする。児童手当は0歳から中学生までを対象に、年収960万円未満の世帯に月額1万~1.5万円、960万円以上の世帯については月額5,000円の特例給付がなされている。特例給付を受けている世帯は、今回の措置の対象とはならない。総額で約1,500億円程度となる見通しだ。
また、雇用の維持にむけて雇用調整助成金を6月末まで拡充する。企業が解雇を行わない場合には助成率を引き上げる。
雇用維持や事業継続のために中小・小規模事業者に対する新たな給付金を設ける。フリーランスを含む個人事業主に最大100万円、中小企業に最大200万円の現金を給付する方向で検討されている。航空会社に対しては、日本政策投資銀行による危機対応融資が検討されている。

(3)収束後のV字回復
足元で需要が落ち込んでいる観光やイベント事業で官民を挙げたキャンペーンを展開する。
外国為替資金特別会計(外為特会)を活用した国際協力銀行(JBIC)の融資や、国際協力機構(JICA)の緊急支援円借款でアジアなどの海外事業も支援する。

(4)強靱な経済構造の構築
中国など特定国に集中した生産拠点などを、国内に回帰、あるいは他国に移転させる取り組みを政府が後押しする。移転費用の最大3分の2を補助する。大企業にも費用の2分の1を補助する。
企業のテレワークを推進する。中小企業の通信機器導入支援は、上限を現在の2倍に高める。

(5)予備費の創設
新型コロナ対策で機動的な対応を可能とするため、1兆円を超える予備費を設ける。

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