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米国の労働市場は劇的な悪化に

2020/04/06

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3月雇用統計には未だ反映されない空前の雇用情勢悪化

米国労働省が4月3日に発表した3月雇用統計で、非農業部門就業者数は前月比70.1万人の大幅減少となった。また、失業率は前月の3.5%から4.4%へと急上昇した。就業者数の減少幅は、金融危機の最中にあった2009年3月の80万人減以来の大きさとなった。また、失業率の前月比上昇幅は、1975年以降で最大である。

業種別にみると、外出制限の影響を受けやすいレストラン、バー、ホテルなどを含む娯楽・宿泊・飲食で、就業者数は前月比45.9万人の大幅減少となった。この業種の減少幅は、全体の65%を占めた。このほかでは、ヘルスケア、専門職・企業サービス、小売り、建設などで就業者数が大きく減少した。

しかしながら、この雇用統計は、新型コロナウイルス問題が引き起こしている米国での労働環境の急激な悪化を、未だ十分には反映していない。この雇用統計は3月12日時点までの調査に基づくが、その後にこそ、雇用情勢の悪化は劇的に進んだのである。

3月21日までの週間新規失業保険申請件数(季節調整済み)は330.7万人、さらに3月28日までの週間新規失業保険申請件数は664.8万人とその2倍に増加した。合計すれば、2週間で約1千万人が、解雇や一時帰休の形で職を失ったのである。非農業部門就業者数の15人に1人程度が、わずか2週間のうちに失職した計算である。

失業給付が滞るリスクも

こうした劇的な雇用情勢の悪化は、5月8日に公表される、次回4月分の雇用統計に表れてくる。雇用の減少幅は、第2次世界大戦後で最大に達するのではないか。

米議会予算局(CBO)は、4-6月期の失業率は10%を超える可能性があるとの見方を示している。月次での失業率は、1948年に記録した10.8%が今までで最も高い数字だ。前回の景気後退局面である2007年~2009年に25か月間で失われた870万人の2倍以上の雇用者数が、今後わずか数か月のうちに失われる可能性がある。

米国での大型経済対策には、失業手当の600ドル(約6万5000円)増額が盛り込まれた。増額分は連邦政府から各州に配分されるが、処理能力の問題から、失業者の手元に届くまでに時間がかかる州もあるようだ。

また、一気に大量の失業者が発生したため、失業保険給付の申請の電話がつながらず、またウェブサイトがクラッシュするなどの問題が次々と報告されている。

2極化する米国労働市場

ところで、3月雇用統計では、リモートワークが可能な業種、職種か、そうでないかによって、雇用情勢に大きな差が生じている点が注目される。雇用者数の減少が最も大きかった娯楽・宿泊・飲食は、対面接待を伴う代表的な業種だ。

ところが、ネットを用いてリモートワークで顧客向けサービスができる職種、情報・金融関連などで高度な技術職で高所得の雇用者数は、先月ほとんど変わらなかった。さらに、コンピューターシステム設計、経営コンサルティング、科学研究といった分野の雇用は、3月にも増加していた。労働市場の2極化が際立っているのである。

シカゴ大学の研究によると、米国人の仕事のおよそ3分の1は在宅で対応可能だという。専門的な科学技術サービス分野では77%以上が、リモートワークが可能だ。しかし、宿泊施設や飲食業では、その比率はわずか3%にすぎない。

また、リモートワークが可能でない低賃金の単純労働は、今後、自動化、機械化によって置き換えられていくだろう。自動運転車や小型無人機(ドローン)による宅配などだ。一部の研究報告によると、前回のリセッション(景気後退)でも、企業による労働節約技術の導入が加速したという。

新型コロナウイルス問題が解決され景気が回復した場合でも、低賃金の単純労働を担う労働者には、働き口が戻ってこない可能性がある。大きな雇用情勢の悪化は、労働市場の構造変化を促すことにもなるのである。

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