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コロナウイルス後の世界経済

2020/04/10

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セーフティネットの強化が重要

治療薬・ワクチンの開発支援、医療体制の強化、ソーシャル・ディスタンス(社会的距離)を通じた感染抑制、経済対策、金融危機回避など、新型コロナウイルス問題に関連して、各国当局は多方面での政策を日々講じている。現状のように危機の局面では、危機対応を行うことが求められる。

ただし、危機であるからといって、どんな経済政策でも許される訳ではないだろう。あらゆる経済政策について言えることだが、政策の狙いがどこにあるかを決して見失わないようにすることが重要だ。そして、危機が収束した後のことを常にイメージしておく必要もあるだろう。

深刻な経済危機を各国にもたらしている新型コロナウイルス問題を、経済政策を通じて直接解決することはできない。新型コロナウイルス問題が収束した際には、できる限り元の経済環境に戻れるようにすることこそが、現時点での経済対策の基本的な理念ではないか。

従って、経済政策の中心は景気浮揚策ではなく、将来の自国の経済発展の担い手である重要な中小企業、労働者、フリーランスを含む自営業が、その経営基盤、生活基盤を失ってしまないように支えていくという、セーフティネット(安全網)の強化策である。4月7日に日本政府が閣議決定した経済対策でも、その柱は、企業・個人向け給付金制度の新設といった、セーフティネットの強化だ。

金融危機回避に向けた中央銀行の取り組みはなお続く

企業、労働者といった生産活動を支える重要なサプライサイド(供給側)が損なわれてしまえば、新型コロナウイルスが収束した後の経済は、それ以前の姿に戻らない。同様のリスクは他にも3つある。

その第1は、金融危機の発生、あるいは金融システムの弱体化である。これが生じると必要な資金が企業に回らなくなる、いわゆるクレジット・クランチが起こり、投資の抑制などが、生産性上昇率、潜在成長率など経済の潜在力を損ねてしまう。欧米では、そうしたことが2008年のリーマン・ショック(グローバル・金融危機)後に起こった。それが、その後の低成長、低インフレ傾向をもたらし、さらに、格差問題、自国第一主義、ポピュリズム(大衆迎合主義)などの温床になったと考えられる。

主要中央銀行の迅速な対応によって、足もとで金融市場はひと頃と比べ安定を取り戻している。しかし、危機が去ったと考えるのはまだ早いだろう。今後も、金融危機回避に向けた中央銀行の取り組みは続くはずだ(当コラム、「金融危機はいつも違った顔で現れる」、2020年3月27日)。

強まる経済への公的関与

第2は、民間経済への公的関与の急拡大である。新型コロナウイルス問題による経済の急激な悪化を受けて、どの国でも政府による手厚い企業支援策が講じられている。今後は、その政府支援の対象は中小企業から、大企業へと広がっていくだろう。その際に、政府が大企業の救済策として株式を保有して、当該企業の経営に関与していく、あるいは国有化していく例も出てくるのではないか。こうした、世界的な公的関与の拡大は、主要国の経済システムが、中国などの国家資本主義に接近していく動きにも見える。

しかし、こうした公的関与の拡大には、市場メカニズムを歪め、企業活動、そして経済の効率を低下させてしまう副作用がある。公的部門が民間部門からヒト、カネ、モノといった生産資源を奪ってしまうことは、民間の経済活動にマイナスの影響も生じさせる。事態が正常化する局面では、各国政府は不要な公的関与を速やかに縮小するようにする必要があるのではないか。

他方、民間経済への公的関与が高まる中、どこの国でも財政環境は急速に悪化していく。特に日本では、新発国債の発行増加、政府債務残高の一段の累積が、将来世代の負担増加を高める点には注意が必要だ。将来世代への負担増加は、企業の中長期の成長期待を低下させ、設備投資の抑制にもつながる。それは、経済の潜在力を一段と低下させてしまうだろう。そうなれば、新型コロナウイルス問題が収束した後も、経済は元の姿には戻らない。

日本でも、政府の要請に応じる形で、他業種の企業が、マスクの生産、医療用衣服の生産、消毒液の生産を拡大させている。あたかも、戦時下の統制経済の中に居るようである。

グローバル化の流れが巻き戻されるリスク

第3は、自国第一主義、保護主義の高まり、グローバル化の流れが巻き戻されるリスクである。新型コロナウイルス問題を受けて、各国では入国規制が一気に広がった。対象国との事前調整なしにとられたこうした規制は、国家間の関係をかなり悪化させてしまった。

また、景気情勢が急激に悪化したことで、各国では自国の産業を守るという保護主義的な傾向が強まりやすい環境となっている。今後は、ヒトの移動の規制が、モノの移動の規制、つまり追加関税などを通じた貿易の規制につながる可能性があるだろう。

また、新型コロナウイルス問題を受けて、企業は、海外からの部材の調達の困難化、いわゆるグローバル・サプライチェーンのリスクを強く意識した。また、海外工場が閉鎖に追い込まれるなど、海外での生産活動のリスクも強く思い知らされた企業は、生産拠点を国内へと移す「国内回帰」、あるいは部材の調達先を国内企業にシフトさせる動きを今後強めるだろう。

先般の日本の経済対策の中にも、企業の国内回帰を政府が支援する施策が盛り込まれている。リスク管理の観点からは、企業が生産拠点の見直しに動くのは当然である。

しかし、保護主義の高まりに加えて、そうして国際分業体制が大きく見直され、自国内で完結する生産体制が形作られていけば、それはグローバル化の流れに逆行するものであり、米中貿易摩擦で明らかになったトランプ政権の自国第一主義的な政策が、世界に一気に広まってしまうことを意味するのではないか。

その際には、新型コロナウイルス問題を機に、世界経済の効率とダイナミズムが、相当失われてしまう可能性があるだろう。

期待したい国際協調の強化

新型コロナウイルス問題を契機に、グローバル化の流れが大きく巻き戻されることがないようにするには、各国共に国際協調と多国間主義、そして自由貿易の価値を再確認し、それらをしっかりと守るという強い意志を持つことが重要だ。

新型コロナウイルス問題の中で生じている厳しい経済環境の下では、各国が自国第一主義の誘惑にとらわれやすい。しかし、世界はかつて経験したことがない、新型コロナウイルスという「共通の強敵」と戦っているのである。そのため、国際協調の重要性がより意識され、経済面でも各国の間の連携がむしろ強化される素地も十分にあるはずだ。

「災い転じて福となす」のことわざのように、強い逆境の下で各国が、国際協調、多国間主義、自由貿易をより推進する方向に動くのであれば、コロナウイルス後の世界経済がそれ以前よりも強くなる、という明るい展望も持ち得るはずだ。容易なことではないが、是非そうした方向に向かって欲しい。

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