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休業補償の問題をどう決着させるか

2020/04/14

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政府が休業補償をすべきとの意見が多い

4月7日の政府の緊急事態宣言を受けて、対象区域7都府県の一つである東京都では、感染拡大のリスクが高いと考えられる一部業種に対して休業要請を実施した。これに先立ち、対象企業の支援とともに、要請の実効性を高める観点から、休業要請に応じた企業に補償を行う、いわゆる「休業補償」を政府(国)に求める声が高まっていた。全国知事会も政府に対して、休業要請で生じる事業者の損失を補償するよう提言していた。

しかし、政府は「休業補償」を実施しないとの方針を堅持したことから、東京都は、自らの財源を用いて休業および時短要請に応じた企業に給付する「感染拡大防止協力金」制度を新たに創設した上で、企業に対して休業要請を実施した。

対象区域の他府県も、東京都と概ね足並みを揃えて、一部業種の企業に対して、休業要請を実施していく流れとなった。しかし、東京都と比べて財政余力が限られる他府県は、引き続き政府に対して休業補償を求めており、両者間で激しい議論が続いている。

世論は、政府(国)に休業要請を実施すべきという論調に傾いている。共同通信社が10~13日に実施した全国電話世論調査によれば、緊急事態宣言を受けて休業要請に応じた企業や店舗の損失を国が「補償すべきだ」との回答は82.0%だった。これは、「補償する必要はない」との回答の12.4%を大幅に上回っている。

休業を強いられる企業の打撃は大きい

休業補償を実施しない理由として政府は、7日に閣議決定をした緊急経済対策の中に、売り上げが半減した個人事業主に100万円、中小企業に200万円を上限に現金給付する制度が含まれていることを挙げる。

休業要請、あるいは時間短縮要請を受け入れることで一時的に売り上げ、収益が落ち込んだ企業も、新型コロナウイルス問題で打撃を受けている他の企業と同様に、この給付金制度を通じて支援することができる、というのが政府の説明だ。他方、休業を行った企業に納品している企業にも悪影響が及ぶことから、休業要請を受け入れた企業にだけ補償しても、不公平感が生じる。それならば、企業を一律、現金給付で支援するのが良い、と政府はしている。

また、休業しなければ得られたはずの収益を厳密に特定するのは難しく、この点から不当請求のリスクも小さくない。

こうした政府の説明にも一定の納得感はある。しかし、休業要請を受けて一時的には売り上げがゼロとなる事業者と、それほどには売り上げが落ち込まない事業者とを、同じ制度で一律支援するのも無理があるように思われる。

政府は「補償」という言葉に強い抵抗か

休業補償の問題を巡って、現在議論の中心となっているのが、政府が緊急経済対策に盛り込んだ、1兆円の臨時交付金の使い道である。政府は、緊急事態宣言の対象区域となる7都府県などが、企業支援のためにこの交付金を活用するように求めている。他方で政府は、それを休業補償に(という名目で)用いることはできないとしている。交付金は国が使い道を特定した上で地方に渡すものである。そのため、都府県がその資金を休業補償に用いる場合には、政府が休業補償を実施していることになってしまうことから、政府はそれを認めないのである。他方で、補償ではなく、中小企業支援の形であれば交付金の使用を容認する考えを政府は示唆している。

政府の言う補償と支援の違いは、実質的には大きくないように思える。こうした議論から推察されるのは、政府が強くこだわっているのは、「補償」という言葉なのではないか。

国の賠償とは、国の違法な行為によって生じた損害を補填するもの、一方、国の補償とは、適法な行為によって生じた損害を補填するものである。補償となれば、国の違法行為によって生じたものではないとはいえ、国が何らかの瑕疵を認めることになるのではないか。それでは、給付金制度のように、政府が困っている企業や人を、いわば慈悲を持って支援する、という政策とは性格が大きく異なってしまう。

そうして、政府がひとたび弱みを見せると、政府に補償を求める動きが、休業要請対象以外の企業からも一気に強まり、収拾がつかなくなってしまうおそれがある。さらに、そうした要求にすべて応える財源もない。こうした点が、政府が休業補償を強く否定している一番の理由ではないか。

臨時交付金を増額して活用を

そうであれば、「補償」という言葉を使わないことによって、事実上、政府が休業補償に近いものを実施するハードルを、下げることができるのではないか。例えば、東京都が実施する「感染拡大防止協力金」などという名称を用いることである。その資金は、臨時交付金を充てればよいだろう。

ただし、現在の1兆円の臨時交付金では、休業要請の対象企業を支えるには十分ではない。緊急事態宣言の対象区域である7都府県での不要不急の消費は1か月で6.8兆円程度と推定される。休業要請の対象となる企業が失う利益の総額はこれよりは小さいだろうが、数兆円単位に上るのではないか。

東京都は、その補正予算で「感染拡大防止協力金」の創設に1,000億円を計上する見込みである。しかし、この金額は東京都の企業が1か月間の休業で失う利益を補うには十分ではない。協力金では金額が足りない、という不満も早晩出てくるのではないか。

そこで、政府は追加の補正予算で早急に臨時交付金を増額し、7都道府県で休業要請を受け入れた企業に対して、「協力金」等の名目で現金を支給することを検討すべきではないか。

具体的な枠組みは、統一の基準とせずに、地域の特性を熟知する都道府県に任せても良いだろう。韓国でも、政府がナイトクラブなどの遊興施設、ジムなど室内スポーツ施設、学習塾などに休業を要請しているが、休業補償の具体的な中身は、各自治体が定めているという。

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