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新型コロナウイルス対策で米大統領と州知事との対立が浮上

2020/04/15

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緊急事態宣言発令前後で政府と東京都との対立が表面化

日本では、4月7日の緊急事態宣言の発令に前後して、政府と東京都の間で対立が表面化した。発令前には、小池東京都知事は、政府に早期の発令を強く迫っていた。緊急事態宣言で法的根拠を得た後に、東京都は独自の対策を強く打ち出す考えであったのだろう。それに対して政府は、経済や社会への影響を配慮して、緊急事態宣言の発令に慎重な姿勢をとった。

発令後も、両者の対立は際立った。新型コロナウイルス対策についての方針の違いに加えて、対策決定の権限を巡る両者の見解の相違も、その背景にあったのである。

小池都知事は、緊急事態宣言の発令とともに具体的措置を実施する権限は対象区域の都道府県知事に移るため、都道府県知事がそれぞれ独自の措置を講じるべき、と考えた。これに対して政府は、政府が示す方針(基本的対処方針)の下で、対象区域の都道府県知事が足並みを揃えた対策を講じるべき、と考えたのである。

法解釈では都知事の見解が正しいか

その結果、休業要請の対象業種や要請時期を巡って、緊急事態宣言の発令後も両者の対立は続いた。新型インフルエンザ特措法には、緊急事態宣言の発令とともに具体的措置を実施する権限は対象区域の都道府県知事に移るということが、明確に定められている。こうした法的観点に基づけば、小池都知事の主張の方が正しいと言えるだろう。

小池都知事は、「自身は代表取締役社長だと思っていたが、実際は中間管理職だった」と述べ、法の規定に反して、政府の方針を受け入れざるを得なかったことへの強い不満を漏らしたのである。

いずれにせよ、政府と東京都は、緊急事態宣言の発令前から、具体的な措置について十分な協議を行い、調整を進めておくべきだった。両者の対立が表面化したことは、国民の間で大きな困惑と不安を生じさせてしまったのである。

経済活動再開に向けて連携を強める米国の各州

こうした新型コロナウイルス対策を巡る中央政府と地方政府との軋轢は、米国でも目立ち始めている。今年11月の大統領選挙も視野に入れて、トランプ大統領は、できるだけ早期に経済の立て直しを始めたいと考えている。大統領は、5月から強い外出規制、ソーシャル・ディスタンス(社会的距離)政策の緩和を始めたいと考えているようだ。

経済活動再開に向けたトランプ大統領のこうした前のめりの姿勢に危うさを感じるクオモ・ニューヨーク州知事は13日に、新型コロナウイルスの対応に関する外出規制解除や経済活動再開に向けて、近隣州と協議に入る意向を表明し、大統領を牽制した。

ニューヨーク州との協議に参加するのは、ペンシルベニア州、コネティカット州、デラウェア州、ニュージャージー州、ロードアイランド州などの東部各州だ。これらの州は、自宅待機などの行動規制でも一定程度連携してきた。

また、西海岸でも同日に、カリフォルニア、オレゴン、ワシントンの3州が経済活動の再開などに向けて連携していく方針を表明している。クオモ知事は同日の記者会見で「(経済活動)再開に向けてはスマートな計画が必要だ。この地域の他州と調整し、相互に学べるような協力が望ましい」と述べている。

規制を解除する決定権は州知事にあるか

州知事らに新型コロナウイルス対策の主導権を奪われることを警戒するトランプ大統領は、経済活動再開に向けた新たな方針を向こう数日のうちに打ち出すと、急遽、宣言した。14日にも、医療専門家と経済界の代表で構成する「米国再開委員会」を開く予定だ。

さらに、トランプ大統領は、「経済を再開する権限は知事にあり、大統領や連邦政府にはないというのはフェイクニュースだ」、「大統領が指示を出す。権限を持っているのは大統領だ」などと主張したのである。

トランプ大統領はこれを憲法に基づく権限だと説明しているが、憲法は、公共の秩序と安全を維持する権限は州にあると明記している。学者らも、新型コロナウイルス対策の規制を解除する決定権は、州知事にあると述べている。クオモ知事は、「米国に王様はいない」として、トランプ大統領を批判している。

しかしトランプ大統領は、さらに経済活動の再開について政府に助言する諮問機関を設け、娘のイヴァンカ氏をメンバーに加える予定だという。近く、諮問機関の名称を発表するとみられている。

日本と同様であるが、新型コロナウイルス対策を巡って、中央政府と地方政府が権限争いを繰り広げる状況は、米国民の不安を掻き立てることになるだろう。

米国株式市場では、経済活動の再開への期待から、楽観論が徐々に強まっているように見える。しかし、感染者増加数が依然として高止まりしている状況の下で、トランプ大統領が経済活動再開に向け前のめりの姿勢を強めていることは、拙速な対応がなされてしまうのではないか、との不安を高める。

さらに、経済活動が再開されていくとしても、それが元の水準を取り戻すまでにはなお相当の時間を要するはずだ。ワクチンが開発されるまでは、人々の行動が完全に元に戻ることはない、という点を考えると、経済活動が完全に正常化するのは、当然のことながら年内のことではない。来年のどのタイミングになるかも、まだ見えていないのが現状だ。

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