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緊急事態宣言と緊急経済対策の同時修正の衝撃

2020/04/17

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全国への対象拡大で消費は1か月間で13.9兆円減少

4月7日の政府の緊急事態宣言発令、緊急経済対策の閣議決定から1週間強が経過したこの時期に、それら新型コロナウイルス対策が、感染拡大の抑止策と経済対策の両面から、突如修正される動きとなっている。

政府が7日に発令した緊急事態宣言では、対象区域を7都府県としていたが、16日にはそれを全国にまで広げる考えが表明された。期間は7都府県と同様に5月6日までとなる。

大都市部のみならず、地方でも新型コロナウイルスの感染が急速に広がってきたことが、決定の背景にある。また、7都府県という大都市部のみに厳しい休業要請などの規制措置を実施していると、大都市部の人々が規制の緩い地域に流れていき、感染が地方へと拡散することを許してしまうリスクへの対応、という面もある。そうした人の移動が生じやすい、月末のゴールデン・ウィークまでに手を打って置こうという狙いが、政府にはある。

7都府県で緊急事態宣言が1か月間発令され、不要不急の消費が控えられる場合、個人消費は6.8兆円減少し、2020年のGDPは1.2%減少する計算だ。そして、緊急事態宣言が全国に対象を広げ、同様に不要不急の消費が控えられる場合、個人消費は13.9兆円減少し、2020年のGDPは2.5%も減少する計算だ。

一律給付はセーフティネット策の趣旨にそぐわない

他方、同じ16日に政府は、公明党からの強硬な要請を受け入れる形で、7日の経済対策に盛り込まれた給付制度、すなわち、所得が大幅に減少した世帯に30兆円を給付する制度を、国民一人当たり10万円を一律に給付する制度に組み替える方針へとにわかに転じたのである。制度設計はなお調整中であるが、所得制限は付かない可能性が高い。

補正予算の審議を始める直前のこの時期に、政府案が修正されるというのは異例の事態である。国民には、政治が混乱している、あるいは連立与党内での足並みが乱れているとの印象を与えるものだ。今回の事態が生じた背景を、政府は丁寧に国民に説明する必要があるのではないか。ところで、一律給付制度の導入には3つの大きな問題があると筆者は考える。

第1に、新型コロナウイルス問題で所得が減っていない人、所得水準の高い人にも同額を給付することは、セーフティネット(安全網)策としての給付金制度の趣旨に照らして、おかしくはないだろうか。

打撃を受けて困っている人や世帯に集中的に資金を投入する方が、セーフティネット策としては明らかに優れており、限られた財源をより有効に使う方法と思われる。制度を組み替えた場合、所得が大きく減少して生活が困難となっている単身世帯の人は、30万円を受け取れると期待していたのに、それがいきなり10万円に減ってしまうと大きく失望するだろう。

所得制限なしの一律給付の唯一のメリットは、迅速に給付できることであるが、現時点で既に迅速な給付とはなっていない。補正予算を組み替えれば、予算成立のタイミングはさらに遅れ、給付時期も先送りされてしまう。実際、補正予算案の国会提出の時期は、当初予定から1週間遅れて4月27日になる見通しだ。

第2に、一律給付の場合には、所得が大きく減っていない人、生活に余裕がある人は、給付分を貯蓄に回す比率が高いことから、経済効果は小さくなってしまう。それは、既に2009年の定額給付金で証明済みである。こうした問題点を踏まえて、30兆円の給付制度が閣議決定されたのではなかったのか。

内閣府は、定額給付金のうち消費に回ったのは4分の1程度、と後に試算している。大きな財政資金を投入する程には経済効果が大きくない、という点においてもまた、一律給付は、限られた財源を効率的、有効に使わない方策ということにならないか。

経済効果はやや高まるが赤字国債発行額の増加が問題

第3に、国民一人当たり10万円の一律給付制度に変更することで、財政負担はさらに膨らむ。世帯当たり30万円の給付制度は、4兆円程度の財政支出となる計算であった。これが、国民一人当たり10万円の一律給付制度に変更されれば、財政支出は12.6兆円程度へと増加する。それは赤字国債の発行増額で賄われることになろうが、その結果、赤字国債の発行額は当初の14.5兆円から23兆円程度にまで一気に膨れ上がる。

赤字国債発行を通じて資金調達すれば、あたかも打ち出の小槌のように、お金が湧いてくる、無から有が生じる、と考えるのは当然のことながら誤りだ。赤字国債の発行を増やせば、将来世代への負担が一層強まり、現世代が将来世代の需要を奪うことになってしまうのである。これは、将来世代の生活、将来の日本経済を犠牲にするような無責任な行為ではないか。

7日の閣議決定の時点で、筆者は、経済対策はGDPを0.9%押し上げるとの試算を示した(当コラム「経済対策で重要なのは経済効果よりも企業、家計の支援」、2020年4月8日)。現金給付制度が見直されれば、この経済効果は1.3%程度まで高まると計算される(現金給付のうち消費に回る比率を、従来の計算の0.3から0.25に引き下げた)。

経済効果はやや高まると言っても、財政赤字、赤字国債の発行額を8,6兆円も増加させることにより生じる大きな問題と比較すれば、これはかなり小さいメリットに過ぎない。

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