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原油先物価格マイナスの怪

2020/04/21

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原油先物価格が初めてマイナスに

米国時間20日のニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)のWTI(ウェスト・テキサス・インターミディエイト)原油先物市場で、期近5月物が一時-37.6ドル/バレルと、1983年のWTI先物の上場以来、初めてのマイナスの価格を付けた。原油の売り手は買い手にお金を支払って、原油を引き取ってもらうことになる。

これは珍現象であるというよりも、新型コロナウイルス問題の下で世界経済がいかに異常な状態にあるかを裏付けるものである。また、それに伴い金融面での大きなリスクがあることを示唆するもの、とも言えよう。

期近5月物は21日最終売買日となるため、既に取引の中心は6月物へ移っていた。そのため、5月物の取引は極めて薄くなり、流動性が大幅に低下していることから値が飛びやすい状況にあった。この点から、マイナス価格という異常な事態は、流石に一時的現象と考えられる。実際、日本時間の21日の市場では、朝方にWTI5月物の価格は、プラスの水準を回復している。

秘密は原油保管場所の不足と保管コストの上昇

一時的であるとはいえ、原油先物価格がマイナスになったのは不思議な現象であるが、その秘密は、原油保管コストの上昇にある。

先般、石油輸出国機構(OPEC)加盟国やロシアなど非加盟国の産油国は、日量970万バレルの減産で合意した。また、カナダのアルバータ州からテキサス州ミッドランドに至るまで、原油の生産業者は油井の閉鎖を急いでいる。しかし、新型コロナウイルス問題を受けた世界経済の悪化によって原油需要は急激に減少しているため、減産の速度が追いついていないのである。そもそもOPEC等の減産合意が実行されるのは、5月1日からだ。

その結果、原油在庫が急速に積み上がっており、原油やガソリン、ジェット機燃料など石油製品の保管場所が足りなくなっている。貯蔵タンクやパイプラインが急速に貯蔵の限界に近づき、海上のタンカーを含めて原油を保管する料金が跳ね上がっている。

こうしたもとで、原油の現物を保有し続けていると、現物価格が下落して評価損が発生する上に、原油の保管料はそれとは逆に急騰を続けることから、合計で、損失がどんどん膨らんでいってしまう。そこで、生産者や投資家の間で、今の時点で原油を売却する契約をしておく、いわゆる損切りが発生したのである。

原油価格下落で金融市場が混乱も

他方、今後経済活動が再開していく中で、原油需要が回復し、原油価格が上昇することを見込む投資家も多い。安価な保管料で原油の保管場所を確保できる投資家にとっては、将来大きな利益を上げるチャンスでもある。

しかし、5月に経済活動が再開し、原油価格が上昇するかは未だ定かではない。経済活動の再開が遅れ、原油在庫がさらに積み上がれば、1か月後の6月物の最終売買日近くには、再びマイナス価格が現出するかもしれない。

原油価格の下落は、新型コロナウイルス問題による世界経済の急激な悪化を反映しているが、それにとどまらず、金融市場のさらなる混乱の火種ともなるはずだ。原油など商品を投資対象としていたファンドなどでは、商品価格の下落による損失の拡大や資金の流出から、破綻するところが出てくる可能性があるのではないか。それは、保有資産の投げ売り観測などを伴って、金融市場を大きく混乱させるだろう。

さらに、原油価格の下落はシェール・オイルの生産者の経営悪化をもたらす。それは、彼らが資金調達手段とする投機的格付けの社債、ハイイールド債(ジャンク債)の調整を促し、企業の資金調達をより難しくするとともに、ハイイールド債投資家に大きな損失をもたらすことにもなる。 こうした点を踏まえると、マイナスの原油先物価格という異例の現象は、未だ燻り続けている金融危機の発生を予感させる不気味な兆候でもある。

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