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政府との協調を強調した日銀総裁記者会見

2020/04/28

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2%物価目標の達成は棚上げ

日本銀行は4月27日の金融政策決定会合で、追加緩和措置を決めた。その内容は概ね事前予想通りであった。会合後の日銀総裁記者会見の内容についても、また大きなサプライズはなかったように思われる。

ただしその中でも注目された総裁の発言は、第1に、2%の物価目標の達成が一時的には政策運営の中核から外れることを明確に示したこと、第2に、追加緩和措置が政府との協調策であることをことさら強調したこと、の2点だろう。

総裁は「物価上昇のモメンタムはいったん失われた」と明確に発言した。対外公表文では、「物価安定の目標に向けたモメンタムが損なわれる惧れに注意が必要な間は政策変更を行わない」とした従来の政策金利のフォワードガイダンスから、「モメンタム」の表現を削除した。このことは、現在の危機対応の局面では、2%の物価目標の達成とは距離をとった形で金融政策運営を行う、との意味が含まれているのではないか。

物価の下振れで追加緩和を決めない

そもそも、このモメンタムという言葉は、展望レポートで先行きの物価見通しが下方修正され、2%の物価目標の達成時期が遠のいても、日本銀行が追加緩和を実施しないための言い訳、という性格が強かった。2%の目標に向けた物価上昇のモメンタムが失われない限り、追加緩和は必要ではないという説明がされてきたのである。

しかし、足もとでは経済が急激に悪化し、需給ギャップが大幅に悪化する中で、もはや「物価上昇のモメンタムが維持されているから追加緩和措置は必要ない」との説明は不可能となったのである。

こうした経緯を踏まえると、今回、日本銀行がモメンタムという言葉を削除したことは、物価の低迷が今後続いても、それだけを理由に追加緩和措置を実施することはない、とのメッセージが込められているのではないか。

日本銀行は2回連続で追加緩和措置を実施したが、物価上昇率の低迷が続いても、毎回の会合で追加緩和を実施する訳ではない、ということだろう。追加緩和を決める際に重要なのは、次に述べる政府との協調(の演出)である。

利下げは当面の追加緩和策の選択肢からは外れた

総裁は、日本銀行の当面の役割は「企業や雇用を支えること」と説明した。これは全く正しいことだが、その役割を主に担うのは政府である。そこで物価目標の達成を一時的に棚上げした日本銀行の追加緩和策は、基本的には政府の政策の側面支援となるのだろう。

今回、拡充を決めた金融支援特別オペも、その一環である。「貸出を通じて企業や家計を支える銀行を支える」というのが、日本銀行の基本的な役割だ。この点から、金融機関の収益を悪化させ、貸出態度を弱めかねない政策金利の引下げは、当面の日本銀行の追加緩和措置の選択肢からは外れた感が強い(総裁は引き続き選択肢から排除しないと説明したが)。

財政規律の低下回避には日本銀行も責任がある

政府との協調、あるいは協調の演出というのが、今回の追加緩和措置の最大の特徴と言えるだろう。当コラムで既に指摘したが(「形骸化が加速する物価目標と日本銀行の新たな責務」、2020年4月27日)、対外公表文で国債買入れを増加させる理由の説明には、財政ファイナンスのニュアンスが入っており問題だと思う。

中央銀行が財政ファイナンスを強く否定しても、金融市場がその可能性を感じ取り、また、政府が中央銀行の国債買入れによって国債発行により前向きの姿勢を強める、つまり財政規律が緩んだ時点で、財政ファイナンスのリスクは高まったと言えるのである。

「財政規律が緩むかどうかは政府サイドの問題」と、記者会見で総裁はやや突き放したような説明を何度かしていたが、日本銀行が財政規律を緩めかねない政策を行わないことが重要だ。

国債買入れを積極的行う主な理由は、イールドカーブ全体を低位に維持するため、としているが、実際には、銀行に対する流動性供給を強化し、それを通じて金融システムの安定を維持することだ。その必要性が薄れれば、国債買入れのペースを低下させるという正常化を速やかに行うことが、財政ファイナンスのリスクを高めないために日本銀行には求められるところだ。

更に、政府との協調をことさら強調することは、金融市場で財政ファイナンスのリスクをより意識させることにもなる点に留意する必要があるだろう。

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