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米中対立激化がコロナ問題に苦しむ世界経済に新たな懸念に

2020/05/07

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再燃する米中対立

新型コロナウイルス問題を巡って、米中間の対立が一気に高まる様相を見せ始めた。その悪影響は、金融市場にも及んでいる。

トランプ米大統領は、新型コロナウイルスが世界に拡散したのは、中国による情報隠蔽と初期対応の失敗にあるとして、中国への批判を強めている。今年1月15日には、米中貿易協議で第1段階の合意が成立したばかりだが、両国間の対立が再燃しつつある。世界経済は新型コロナウイルス問題によって大恐慌以来の空前の悪化となっているが、この状況に米中対立に伴う経済環境の悪化が加わることを、金融市場は警戒しているのである。

トランプ政権は、「新型コロナウイルスが中国武漢のウイルス研究所から広がったという証拠がある」としている。更に、中国が感染拡大抑制の初期対応を誤った結果、新型コロナウイルスが世界に拡散したとして、中国に報復措置を検討していることを明らかにしている。

追加関税や損害賠償による報復も

トランプ大統領は中国への報復措置として、「関税なら簡単にマネーを得られる」とし、中国からの輸入品に追加関税を導入することを検討していることを明らかにした。1月15日の米中貿易協議の第1段階の合意で、追加関税の応酬は休戦状態に入ったが、トランプ大統領は「中国発の新型コロナで気が変わった」と発言し、その合意を破棄する考えも示唆しているのである。

また、トランプ政権は、損害賠償金を中国に直接請求することも検討しており、日欧などにも同調を求め始めているという。米紙ワシントン・ポストは、中国を米国の法廷に立たせて損害賠償を求めるために、米国が中国に対して「主権国は他国の法廷の被告になれない(外国の裁判所の管轄に服することを免除する)」という国際法の「主権免除」条項を剥奪することを議論している、と報じている。「主権免除」とは、国家の活動のうち、私法的・商業的行為ではなく主権的行為については、裁判権免除が認められるとされるものだ。

米国債の償還拒否も選択肢に

更に一部のメディアは、報復措置として、中国が保有する米国債の償還を米国が拒否する可能性がある、と報じている。トランプ大統領は記者団に対して、「それも可能だが、強いドルを守る必要がある」と述べ、同案に対しては否定的な見解を示したものの、選択肢としては排除されていない可能性がある。

中国が保有する米国債の償還を米国が拒否するという懸念は、米国債の価値を低下させることで国債利回りを押し上げ、また、海外からの米国債投資に悪影響が出るとの観測が、ドル安を生じさせる。それは、米国に悪い利回り上昇と悪いドル安をもたらし、米国経済や金融市場に悪影響を与えることになる。

大統領選挙の戦略であることは明らか

トランプ大統領がにわかに対中批判を強めた背景には、11月の大統領選挙があることは明らかだ。初期の対応の不手際から、新型コロナウイルスの米国内での蔓延を許してしまったというトランプ大統領に対する批判は、国民の間に根強い。他方、「戦時の大統領」を演出して、国民の支持を得ようとするトランプ大統領の戦略は、今のところはあまり成功していないように見える。足もとの世論調査では、民主党のバイデン候補に後れをとっていることを示すものも見受けられる。

そのため、新型コロナウイルスの感染拡大を自らの責任ではなく、中国の責任であると主張することは、トランプ大統領にとって、選挙対策の一環であることは明らかだ。

中国政府は開示していない情報があれば速やかに開示し、ウイルスの情報源を探る国際調査などもいずれ受け入れるべきだろう。しかし今は、犯人探しに注力するよりも、人類共通の敵である新型コロナウイルスとの闘いで、各国が最大限協調すべき重要な時だ。

このタイミングでの米中の対立激化は、世界の新型コロナウイルス対策と経済安定化策の双方にとって大きなマイナスとなることを、トランプ政権は理解すべきだろう。

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