フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 失業者265万人増で失業率は戦後最悪の6%台:隠れ失業を含め11%台に

失業者265万人増で失業率は戦後最悪の6%台:隠れ失業を含め11%台に

2020/05/11

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

日本でも雇用情勢は急速に悪化

米国では、4月の非農業部門の就業者数(季節調整値)が、前月比で2,050万人減少した。また、4月の失業率は前月の4.4%から一気に14.7%まで上昇した。ともに、第2次世界大戦以降、最悪である。新型コロナウイルス問題を受けた経済の悪化の程度が、世界恐慌以来であることを裏付けている。先行きの米国の失業率は、20%を超えると見込まれる。

他方、日本では、失業率が2桁まで上昇することは考えにくい。米国と比べると法制面、慣行面などから、日本の労働市場の流動性は概して低いためだ。それによって、深刻な経済危機の下でも、日本では社会の安定が比較的維持されやすい。ただし、雇用者の解雇が容易でない分、企業の負担がより大きくなるという傾向がある。

米国ほどではないが、この先、日本の雇用情勢も急速に悪化していくことは避けられない。失業率の水準も、戦後最高水準に達することは十分に考えられるところだ。

失業者は265万人増加で失業率は6.1%と戦後最悪に

そこで以下では、先行きの日本の失業者増加数と失業率を予測してみたい。その際に参考とするのは、2008年9月のリーマンショック(グローバル金融危機)後の雇用情勢だ。その翌年の2009年7月には、失業率は5.5%と戦後最高水準にまで達した。

リーマンショック後には、実質GDPは1年間マイナス成長を続け、それ以前の水準から8.6%下落した。一方この時期に、就業者数は196.9万人、2.9%減少した。実質GDPの変化率に対する就業者数の変化率を示す弾性値は、0.34である。景気の悪化に対して、企業はその3分の1程度の雇用調整を行ったことになる。

ところで、今回の景気の悪化は、リーマンショック時を上回る可能性が高い。筆者の見通しでは、実質GDPは1年間マイナス成長を続け、2019年7-9月期のピークから11.6%下落する。これは、リーマンショック後の景気の落ち込み幅の約1.3倍である。

リーマンショック後と同様に就業者数の弾性値を0.34とすると、労働者265万人が職を失う計算となる。その場合、失業率はピークで6.1%に達する(図)。失業率は戦後最悪の水準となり、6%台に乗せる可能性がある。

(図)コロナショックによる失業者増加と失業率の推計

隠れ失業者517万人、隠れ失業者を含む失業率は11.3%に

ところで、失業者とは定義されないものの、休業状態にある実質的な失業者数は、相当数に達するだろう。失業した労働者の生活は、雇用保険制度の失業給付によって支えられる。それは、企業と労働者の保険料によって賄われる。

他方、解雇されなくても休業を強いられる労働者は、企業が支払う休業手当、そして雇用保険を原資とする政府の雇用調整助成金によって賄われる。さらに、それらで完全に賄われない部分や時間短縮を強いられたことによる収入減については、労働者の負担となる。それは、政府の特別給付金制度によって部分的に賄われることになる。

ここで、実質GDPの減少分だけ、労働者の雇用が失われると仮定した場合の潜在的な失業者を計算する。更に、そこから、実際の失業者数を引いた部分を「隠れ失業者」としよう。

隠れ失業者数は、リーマンショック時には355万人、今回は517万人と推計できる。その場合、隠れ失業者を含む失業率は11.3%まで上昇する計算となる。実質的には、日本でも失業率は2桁に達すると予想することができる。

リーマンショック時よりも雇用情勢が悪化しやすい面も

以上では、リーマンショック時の経験に即して、先行きの失業者増加数と失業率を推計した。他方、当時以上に雇用維持に寄与する積極的な経済政策が実施されれば、失業者増加数をこの試算値以下に抑えることは可能ではある。しかし、その可能性は高くないのではないか。

それは、リーマンショック時と比べて、雇用情勢をより悪化させやすい要因があるからだ。リーマンショック時には、海外経済の悪化や貿易金融の混乱などによって、輸出の悪化が際立った。その際に最も大きな影響を受けたのは、輸出型大企業であった。

それに対して現在では、最も大きな打撃を受けているのは飲食業など内需型サービス業である。それらは、中小・零細企業が中心である。大企業と比べて中小・零細企業は雇用を維持する力が格段に弱いはずだ。倒産や廃業に追いこまれることで、労働者が職を失うケースも多いだろう。

混乱する政府の雇用維持政策

政府は、企業が支払う休業手当を補助する雇用調整助成金制度を拡充することで、労働者の解雇を防ぐ取り組みをしてきた。しかし、この雇用調整助成金制度には、①企業が労働者に休業手当を支給して初めて申請できる、②同制度に申請するかどうかは企業側の判断によるもので、労働者はその判断に関与できない、③同制度の申請手続きが非常に煩雑である、といった問題があり、支給は思うように進んでいないのが現状だ。

そこで政府は、休業を余儀なくされている労働者を支援するため、離職していなくても失業したとみなして同じ失業手当を支給する、「みなし失業」という特例制度の導入に向け、新たな立法措置を行う方向で検討に入った。

このみなし失業は、企業ではなく労働者が自ら申請できるため、生活資金を迅速に得られる。また企業にとっても、休業手当を負担することなく雇用を継続できるというメリットがある。この制度は、東日本大震災や昨年の台風被害などで適用されたものだ。

他方で政府は、日額の上限8,330円を引き上げることを検討するなど、雇用調整助成金制度の一段の拡充もまた目指している。雇用調整助成金制度とみなし失業制度には、重複感があることは明らかだ。どちらの制度を選択するかは企業、労働者の判断に任されるのだろうが、政府の対応に混乱が見られるという点は否めない。

このような新たな取り組みが奏功すれば、今後の失業者増加数や失業率は、上記の試算値(図の標準シナリオ)のようになる、と考えることができる。しかし今後も、雇用維持の政策が上手く機能しない場合には、リーマンショック時よりも失業者が一層増えやすくなるはずだ。

そこで、そうしたケースも想定して、最後にリスクシナリオを示しておきたい。

政策が十分に機能しない場合、失業者増加300万人超、失業率7%近くに

政府による雇用維持の政策、あるいは企業の経営維持を図る給付金、家賃支援策などが十分に機能しない場合には、中小零細企業で倒産、廃業あるいは雇用者の解雇の動きがより広範囲に広がることになるだろう。

そうしたケースでは、景気悪化に対する就業者の減少の弾性値が、リーマンショック時の0.34の2割増し、つまり0.41になると仮定しよう。その場合、失業者増加数は318万人と300万人を上回り、失業率はピークで6.9%と未曽有の7%水準に近付く計算となる。

それでも、失業率は4月の米国の半分以下ではあるが、戦後の最悪水準を大幅に上回る失業率となれば、日本においても社会的な不安が高まる事態となる可能性もあるだろう。

こうしたリスクシナリオが現実のものとならないようにするには、政府は財源をしっかりと確保した上で、追加の企業、個人向け支援を迅速に講じていく必要がある。

企業・個人向けの支援策は、先般成立した補正予算では11兆円程度の規模になったと推測されるが、更にその3倍程度の32兆円規模の追加支援が必要となる計算である(コラム「緊急事態宣言延長後の追加財政支援必要額の推計:半年間で32兆円」、2020年5月7日)。

日本の大きな特性である社会の安定が、コロナショック下でも果たして維持できるかどうか。それに向けた政府の取り組みは、未だ序盤戦である。

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

新着コンテンツ