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新興国ハイイールド債投資は魅力的か

2020/05/15

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新興国ハイイールド債のデフォルト率がリーマンショック後を上回る見通し

格付け会社のムーディーズ社は、新興国でのハイイールド債のデフォルト(債務不履行)率が、向こう1年のうちに2008年のリーマンショック(グローバル金融危機)後のピークを上回る可能性がある、との見通しを示した。2021年3月末時点で、すべての新興国の投機的格付けの社債、即ちハイイールド債のデフォルト率は、最悪のケースで13.7%に達するとの見通しである。これはリーマンショック後のピークである13.6%を、わずかながら上回る水準となる(注)。

こうした見通しの背景として、新型コロナウイルス問題による需要の劇的な悪化が、新興国企業の収益性と資金繰りを著しく悪化させる、とムーディーズ社は説明している。

昨年2019年には、新興国のハイイールド債のデフォルト率は0.8%まで低下し、わずか7社しかデフォルトしなかった。それらの中には、ジャマイカの通信会社と3つの中国企業が含まれた。

小売とエネルギー関連にリスク

しかしムーディーズ社は、向こう1年でデフォルト率が最低で8.3%、最高で13.7%のレンジまで上昇すると予想している。ムーディーズ社は、デフォルト率は、経済見通しに従ってかなり高い精度で予測できるとしている。

今のところは未だデフォルトした企業は出ていないが、2つのセクターでそのリスクが特に高まっているという。それは、小売とエネルギー関連である。この2つのセクターは、新型コロナウイルス問題が生じる前から、経営環境が悪化していた。

JPモルガンも、新興国のハイイールド債市場により慎重な見通しを示している。米財務省証券利回りと新興国のハイイールド債利回りとの格差を、今年年末時点で4.4%としていた従来の見通しを、7%にまで一気に引き上げた。これは、現在の8%程度の高水準が、年末まで続くとの見通しである。

新興国・途上国投資に強気の見方も

しかしながら、新興国ハイイールド債市場については、投資家の間で見方は分かれており、強気の見方も少なくはない。それは、日本の投資家の間でも見受けられる。

それらは、①新興国の財務体質は、2008年のリーマンショック時と比べてかなり改善している、②各国中央銀行の積極的な金融緩和策によって助けられている、③アジアを中心に、新興国のマクロ経済環境は、欧米など先進国よりも相対的には良い、などを根拠としている。

国際通貨基金(IMF)は2020年の世界の実質GDP成長率が-3.0%との見通しを4月に公表した。そのうち先進国の成長率は-6.1%、途上国・新興国の成長率は-1.0%である。確かに、途上国・新興国の成長率の落ち込みは、先進国の成長率の落ち込みより小さい。

途上国・新興国の経済環境はリーマンショック時よりも格段に悪い

しかし、リーマンショック後の2009年の途上国・新興国の成長率は+2.8%だった。それと比べると、今回の成長率の落ち込みは、格段に大きいものである。しかもIMFは、6月に改定する見通しでは、世界経済の見通しは更に下方修正する方向、と説明している。

この点を踏まえると、途上国・新興国のハイイールド債のデフォルト率は、リーマンショック後を大きく上回っても不思議ではないだろう。仮に、先進国との相対感で見れば、途上国・新興国のハイイールド債投資に妙味があるとしても、絶対的に見ればかなりリスクのある投資に思える。


(注)"Moody’s warns of sharp jump in EM debt default", Financial Times, May 12, 2020

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