フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 レバレッジドローン・CLOはなお金融市場動揺の火種

レバレッジドローン・CLOはなお金融市場動揺の火種

2020/05/15

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

今回は企業債務が金融市場混乱の火種に

新型コロナウイルス問題による短期的な経済への打撃がどの程度になるか、に加えて、経済の悪化がどの程度長引くのか、という点は、金融市場の動向を占う際に非常に重要である。なぜならば経済の悪化が長引くほど、企業の信用リスクは着実に高まり、企業債務の格下げが進むからである。

それは、関係する金融商品の価格を低下させる。それ自体が金融市場の安定を損ねるものだが、さらに当該金融商品を保有する投資家によるファンドの解約が、運用商品の換金売りなどを加速させ、金融市場を混乱させる。そうした中では、企業の資金調達がより難しくなることで、経営環境が一層悪化してしまうだろう。

2008年のリーマンショックの際には、金融危機の引き金となったのは、住宅ローン、住宅ローン担保証券(RMBS)といった家計債務であった。今回、金融市場を揺るがす火種となりやすいのは、特に信用力の低い社債、信用力の低い企業向けの融資、いわゆるレバレッジドローン、それを証券化したCLO(ローン担保証券;Collateralized Loan Obligation)だ。

レバレッジドローンとCLOは急成長

近年、レバレッジドローン市場は、米国を中心に急拡大してきた。その米国での規模は、2007年の5,540億ドルから、2019年末には1.2兆ドル程度まで2倍以上に拡大した(S&Pによる)。また、レバレッジドローンから組成されるCLOの市場はこの間、3,270億ドルから6,910億ドルへと、やはり2倍以上の規模にまで膨らんだのである(JPモルガンによる)。

こうしたCLO市場の拡大に大きな役割を果たしたのが、未公開企業に投資をするプライベート・エクイティ(PE)・ファンドだ。彼らは、中小企業を買収する際に銀行から借入を行なうことで、レバレッジドローンを拡大させた。さらに、レバレッジドローンに基づくCLOの組成、管理にも深く関わってきたのである。

FRBの証券化商品支援も十分ではない

今年3月の金融市場の混乱を受けて、米連邦準備制度理事会(FRB)は証券化商品購入の原資を低利で提供する、「TALF2.0」というスキームを打ち出した(コラム「FRBは投資家救済策(TALF2.0)をいつ本格稼働させるか」、2020年4月30日)。このスキームは、証券化商品市場を支え、またそれに投資するファンドなどを支援するものだ。

FRBがこうした措置を打ち出したことは、一時期大きく混乱したCLO市場の安定回復に一定程度は貢献したものの、決して十分なものではない。企業の信用力が低下し、格下げが進んでいく中では、需給面から証券化商品の価格を支えることを目指す、こうした措置の効果にも限界があるだろう。

S&Pのレバレッジドローン指数は、3月に2割以上下落した後に値を戻したものの、現状でもなお半値戻し程度の水準にとどまっている。

(図)S&Pレバレッジドローン指数の推移

(出所)ブルームバーグ
(参考資料)Stress Point in the system, Financial Times, May 14, 2020

急速に進むCLOの格下げ

レバレッジドローンを原資とするCLOの利回りは、最高格付けのトランシュであるトリプルAも含めて、3月にはかなり上昇(価格が下落)した。その後、高格付けのトリプルA、ダブルA、シングルAまでは、利回りは上昇前の水準に戻ったが、それ以下の格付けのCLOの利回りは、なお高止まりしている。

ダブルB格のCLOの利回りは、8%程度から一時16%程度まで上昇し、その後やや低下したものの、足もとではなお13%程度の高水準にある(JPモルガン、パルマースクエアによる)。

企業の信用力の低下を映したCLOの格下げは、既に全体の4分の1にまで広がっているという(バンカメによる)。さらに、1,000以上のCLOが、格付け機関の将来の格下げ候補(review for downgrade)となっている。格下げの動きは、直ぐには収まりそうにもない。

ヘッジファンドへの打撃とCLO組成停止の動きも

こうしたもと、CLOの価格下落は、ヘッジファンドの活動にも大きな影響を及ぼしている。ブルームバーグ社が報じたところによると(2020年5月14日)、ヘッジファンド会社セロン・キャピタル・マネジメントの旗艦ファンドは、3月の運用成績がマイナス36%と、月間としては過去最悪になったという。レバレッジドローンの価格下落によって、格付けの低いCLOトランシュの価格が大きく下落したことがその背景だ。

さらにCLOの組成にもブレーキが掛かってきた。やはりブルームバーグ社が報じたところによると(2020年5月14日)、資産運用会社スティール・クリーク・インベストメント・マネジメントとアクサ・インベストメント・マネジャーズは、CLOの裏付けのために購入したレバレッジドローン債権を証券化することを断念し、現金化して清算することを決めたという。

両社は、金融機関がつなぎ資金を提供する「ウエアハウス」と呼ばれる信用枠を利用して、こうしたレバレッジドローンを購入してきた。

しかし、レバレッジドローンの価格が大幅に下がり、CLOの買い手を見つけることが困難になったことから、レバレッジドローンの購入とCLOの組成を停止することを決めたのである。

問題は時間差を伴って表面化してくる

こうした動きは、銀行がレバレッジドローンを増加させることをより慎重にさせ、企業の資金調達に支障を生じさせてしまうだろう。いわば資金ひっ迫(クレジット・クランチ)である。

FRBの積極的な対応等により、企業債務を原資とするCLOなどの証券化商品は、安定を取り戻したかに見えるが、実際には安定回復にはなお遠い状態である。今後時間が経過するに従い、企業の財務の悪化、信用力の低下、格下げの動きは進んでいき、それが金融市場の混乱、ファンドなどの経営不安問題、企業の資金ひっ迫などの多くの問題を生じさせていく可能性がある。

こうした問題は、経済の低迷が長期化する中で、時間差を伴って段階的に表面化していくものである。それは、いわば時間の増加関数の性格がある、という点を忘れてはならないだろう。

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn