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英国経済の見通しの悪さがなぜ際立つのか

2020/05/18

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イングランド銀行は2020年の英国成長率を-14%と予想

先進国の中で、英国経済の見通しの悪さが際立っている。5月7日に英イングランド銀行(中央銀行)は、2020年の英国の実質GDP成長率を-14%との予想を発表した。これは、現時点で公的機関が予想する先進国の2020年成長率見通しとしては、突出して低いのではないかと思う。国際通貨基金(IMF)が4月に出した世界経済見通しでは、2020年の英国の実質GDP成長率は-6.5%と、先進国平均の-6.1%よりも多少悪い程度だった。

イングランド銀行の経済見通しの内訳を見ると、2020年の実質個人消費は、前年比-14%となっている。この水準は、他の先進国の見通しとそれほど大きな違いはないだろう。他方で個人貯蓄率は、2019年の6%から、2020年には17%へと一気に上昇している。新型コロナウイルス問題によって外出自粛を強いられ、個人消費が無理やり抑えられているのであれば、貯蓄率が上昇するのは当然のことだ。

設備投資の弱さに大きな特徴

しかし、個人消費の減少に対応して、企業が雇用削減、労働時間短縮を進めていれば、消費抑制と並行して所得が落ちることから、ここまで貯蓄率は上昇しないのではないか。

つまり、欧州大陸の諸国と比べれば英国の労働市場の流動性は高いものの、米国で見られるほどには解雇、一時帰休などが進まない。その結果、企業の人件費負担は高まることになる。イングランド銀行の見通しでは、2020年の単位労働コストは11%も上昇する。企業収益も相当悪化するだろう。

その結果として、大きく景気の足を引っ張ることになりやすいのが、企業の設備投資である。2020年の実質設備投資は、前年比-26%の大幅減少となることを、イングランド銀行は予想している。これこそが、英国経済の見通しが先進国の中で際立って悪い、最大の理由ではないか。

ハードブレグジットへの懸念が高まる可能性

ところで、英国の設備投資が弱い背景には、EU(欧州連合)離脱後の通商協定に関する不確実性もある。英国は今年1月末でEUからの離脱を実現した。しかし、今年の年末までにはEUとの間には従来の関税同盟が維持される。英国のジョンソン首相は、EUとの通商協定の締結を延期しないと主張してきたが、新型コロナウイルス問題によって両者間の交渉は大きく停滞しており、予定通りに年末までに新たな通商協定の締結で合意することはほぼ無理な状況である。

その結果、新たな通商協定の締結がないままに移行期間が終了し、両者間で関税率は一気に高まる事態、つまりハードブレグジットの懸念が、企業の間でこの先高まる可能性がある。これが企業の設備投資をより慎重にさせよう。

英国は2つの大きな不確実性に見舞われる

ただし、最終的には、従来の関税同盟が維持される、いわゆる移行期間が延長される可能性が高いのではないか。延長期間は最終的には数年間に渡る可能性もあるだろう。移行期間が延長されることで、ハードブレグジットは回避される。それ自体は、英国企業にとっては良いニュースである。

しかし一方で、英国とEUとの間の通商関係が不確実である状態が長く続くことになるため、英国企業、英国に進出する海外企業にとっては、工場の立地などを含めて、先行きの計画を立て難い状況が、長く続いてしまうことを意味する。その結果、企業はやはり設備投資を控える行動をとるだろう。

ハードブレグジットのリスクとEUとの間の新たな通商関係が長期間決まらないリスクとが、この先、連続して英国企業に大きな不確実性と懸念をもたらす可能性があるのだ。

新型コロナウイルス問題の先行きの不確実性とEUとの間の通商関係の先行きの不確実性とが重なる中、企業は設備投資を含めて多くの意思決定を先送りすることを強いられるだろう。

こうした事情を踏まえれば、2020年の英国経済の見通しが、先進国の中で悪さが際立つことも、何ら不思議なことではない。

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