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長期景気後退を兆す1-3月期GDP統計

2020/05/18

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コロナショックの影響を色濃く映したGDP統計

5月18日に内閣府が発表した2020年1-3月期GDP統計1次速報値で、実質GDPは前期比-0.9%、年率換算値で-3.4%と、前期のそれぞれ―1.9%、-7.3%に続いて、2四半期連続での大幅マイナス成長となった。1-3月期の成長率は、年率換算値で-4.5%程度という事前予想の平均値を上回った。

需要項目別に見ると、1-3月期のマイナス成長に最も大きく寄与したのは、実質個人消費と実質輸出の2つである。実質個人消費は前期比-0.7%となったが、これは3月以降を中心とする国内での消費抑制の動きを反映したものだ。他方、実質輸出は前期比-6.0%と大幅マイナスとなった。これは、新型コロナウイルス問題を背景にした、2月以降の中国経済の急減速を背景にしたものと、インバウンド需要の急激な落ち込みを映したものである。

GDP成長率は事前予想を幾分上回ったものの、需要項目ごとの動きをみると、概ね事前の予想の範囲内と言えるのではないか。

2019年度の実質GDP成長率は-0.1%と、前回消費税率引き上げが実施された2014年度の同-0.4%以来のマイナス成長となった。

マイナス成長が1年間続く可能性

4-6月期の実質GDP成長率は、緊急事態宣言下での一段の個人消費抑制の影響などにより、年率20%台後半程度の空前の大幅マイナス成長となる可能性は極めて高い。4月に成立した2020年度補正予算に含まれた経済対策の実質GDP押し上げ効果は+1.2%程度と推定されるが、こうした急激な景気の落ち込みに対しては、焼け石に水の状況だ。

そのため、日本でのマイナス成長は3四半期連続となることがほぼ確定的となる。中国のマイナス成長は、1-3月期、欧米でのマイナス成長は、1-3月期と4-6月期とそれぞれ見込まれるが、日本では昨年10月の消費税率引き上げの影響も加わることで、海外よりも長いマイナス成長期間となる。

さらに、7-9月期も小幅なマイナス成長となる可能性がある。同期には、個人消費は前期比プラスに転じようが、海外での急激な経済の縮小の影響は、やや遅れて輸出の大幅減少につながる。さらに、内外需要の急激な落ち込みに対して、国内での生産削減の動きが遅れて顕在化し、それが在庫投資のマイナス成長寄与となろう。

7-9月期も小幅なマイナス成長となれば、日本ではマイナス成長が1年間続くことになる。

日本はバブル崩壊後以来の長期景気後退に陥る

今回2四半期連続でマイナス成長となったことで、日本が景気後退期に入ったとの見方がより強まることになろう。2四半期連続でのマイナス成長は、海外では暫定的な景気後退入りと判断されることが多いためだ。

日本で景気局面の判断に用いられる景気動向指数の一致指数は、トレンドを示す7か月後方移動平均値で見ると、今年3月で17か月連続での下落となった。その値がピークを付けたのは、2018年10月だった。これは、中国や欧州を中心に世界経済が減速を始め、日本の輸出が鈍化し始めたタイミングだ。

また2019年10月には、消費増税率引き上げ前の駆け込み購入の反動が生じた。さらに、今年の年明け以降は、新型コロナウイルス問題の影響で、内外経済は急激な悪化に見舞われたのである。これら3つの要因が重なったことで、今回は、比較的長い景気後退となる可能性が高まっている。

ところで、景気一致指数は、鉱工業生産の動きに大きく左右される傾向がある。今年4-6月期の鉱工業生産は、大幅なマイナスとなる可能性が高い。また、7-9月期の鉱工業生産もマイナスになる可能性があるだろう。

仮に、今年8月まで一致指数が下落トレンドを続け、一致指数の7か月後方移動平均値がピークを付けた2018年10月から2020年8月まで景気後退期間と後に判定される場合には、その期間は22か月に達する。

長期景気後退は企業や雇用に大きな打撃

リーマンショック後の景気後退期間は、13か月であった。景気後退期間が今回仮に22か月となれば、1991年2月から1993年10月までの32か月以来、即ちバブル崩壊後以来の長さとなる。

戦後の景気後退期間の平均は15.3か月であるから、今回はそれよりも長いことになる。さらに近年は、景気拡張期が長くなる一方、景気後退期が短くなる傾向が明らかに強まっていたことから、それを踏まえると、これは例外的な長期景気後退と言えるだろう。

景気の調整期間が長くなればなるほど、持ちこたえられなくなった企業の倒産や廃業は増える。それは、失業者の増加など雇用情勢の悪化にもつながりやすい。さらに、不動産市況の下落などによっても助長された銀行の不良債権問題の深刻化などにもつながるだろう。

景気の落ち込みの程度で見ても、今回のコロナショックはリーマンショックをかなり上回る可能性が高いが、景気後退の長さで見た場合には、その悪化の程度はより際立つことになる。

海外と比べて長い日本のマイナス成長期間、そして景気後退期間は、コロナショックが日本の経済や社会の安定を脅かすリスクを増幅させる。そのため、企業や生活者の支援などの政策対応の難易度は、海外を上回ることになろう。

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