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独仏提案で欧州復興基金の創設プランが前進

2020/05/20

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復興基金で独仏が提案

5月18日にドイツのメルケル首相とフランスのマクロン大統領は、新型コロナウイルスで深刻な被害を受けた国を支援するために、5千億ユーロ(約58兆円)の「復興基金」を設立するよう、EU(欧州連合)に提案することで合意した。メルケル首相は、「欧州の結束が非常に重要だ」とその背景を説明している。

EUは4月の首脳会議で、イタリアなどの求めに応じて復興基金をつくることで合意したものの、規模や財源といった具体的な制度設計は先送りしていた。今回の独仏の共同提案によって、復興基金の創設に向けた動きが加速し始めたと言えるだろう。これを受けて、18日の市場ではユーロが大幅に買われ、また、イタリア国債の利回りが大きく低下するなど、金融市場は独仏の提案にかなりの好感を示した。

独仏の提案で非常に注目されるのは、復興基金の規模の大きさ、融資ではなく補助金(交付金)であること、EU加盟国の共通化した債務としたこと、の3点である。復興基金の規模としては、従来EU内では3,200億ユーロ程度が想定されていたが、独仏の提案は5千億ユーロとその1.5倍以上の規模となった。

融資ではなく補助金方式に

また、復興基金を通じた支援は、融資(ローン)ではなく、返済する必要のない供与(グラント)、補助金の形となる。これは、イタリアなどが強く要求していたものだ。

そして、資金の調達は欧州委員会が担い、EU名義による金融市場での借り入れを認める。事実上加盟国が共同で債務を負う、前例のない方式だ。マクロン大統領は、「独仏共同で、初めて共通化した債務を加盟国に提案する」と語った。これは、ドイツが長らく拒否してきた、EU共同債(コロナ債)の発行につながるものだ。

また、基金は2021~27年のEU中期予算の枠組みの中に取り込まれ、返済されていく仕組みである。メルケル首相は「5千億ユーロの返済期間は長期に及ぶ見通しであり、通常のEU予算と同様に、ドイツの負担割合は約27%になる」と発言している。

独仏提案に反対する国々

ただし、この独仏提案については、EU内で即座に反対意見が表明されている。オーストリアのクルツ首相はこの独仏の提案に対して、「基金は補助金ではなく加盟国に返済させる融資方式にすべき」と反発している。さらに、補助金に反対してきたオランダやデンマーク、スウェーデンと連携する構えを示している。

さらに、資金調達方法については、従来フランスやイタリア、スペインはEU共同債による資金調達を要求し、ドイツやオランダが反対するという構図であった。今回、ドイツがEU共同債の発行につながるスキームに賛成する姿勢に転じたが、オランダは反対の姿勢を維持する可能性がある。復興基金の設立には加盟27か国の合意が必要になることから、独仏の提案がそのまま採用される可能性は高くないだろう。

欧州委員会が独自案を提示へ

フォンデアライエン欧州委員長は、独仏の提案を歓迎する声明を発表した。他方で、欧州委員会は5月27日に、復興基金に関する独自案を提示する。委員長は、「欧州委員会の提案は仏独案と方向性は同じだが、全加盟国および欧州議会の考えも考慮する」と説明している。独仏案に反対する国の意見も部分的に受け入れる案を示すことになるのだろう。

6月18日からのEUサミットで最終決着を図るが、その着地点はまだ見えない。しかし、今回ドイツが大幅に姿勢を転じたことで、実効性の高い「復興基金」の設立にかなり近づいた感は否めない。

独仏提案で示された、補助金方式と事実上加盟国が共同で債務を負う方式の2つについて、最終的に基本路線が維持されるのかどうかが、今後の大きな注目点となろう。

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