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解除に向かう政府の緊急事態宣言と地方主導の重要性

2020/05/20

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5月の緊急事態宣言は失業者を48万人増加させる

政府は、緊急事態宣言に指定している8都道府県(北海道、千葉、埼玉、東京、神奈川、京都、大阪、兵庫)の解除の可否について、21日にも判断する。政府は、解除基準について、①感染状況、②医療提供体制、③PCR検査などの監視体制の3点を挙げている。このうち、①の感染状況については、「10万人当たりの1週間の感染者が0.5人程度以下」を目安の一つとしている。

西村担当大臣は、大阪、京都、兵庫の3府県の新規感染者数はこの解除の条件を満たす、と19日に発言している。それ以外に医療提供体制などの基準についても考慮に入れる必要があるものの、この関西圏の3府県については、最終的に解除される可能性が高そうだ。

他方、首都圏では、新規感染者数が解除の条件を満たす県と東京都を含む満たさない都県とが混在している状況だ。ただし、首都圏の各知事は、1都3県は通勤や通学などの生活圏が重なるため、緊急事態宣言の解除は一体で実施すべき、と主張している。この点も踏まえ、北海道と首都圏の1都3県では、緊急事態宣言は解除されない可能性が高そうだ。

このような前提で試算してみると、緊急事態宣言によって減少する個人消費は、5月1か月間で11.7兆円となる。これは、2020年のGDPを2.1%押し下げる計算だ。その結果、失業者は48.1万人増加することになる。

他方で仮に、21日にすべての都道府県で緊急事態宣言が解除される場合には、5月の個人消費は11.0兆円減少、GDPは2.0%低下、失業者増加は45.8万人となる。

消費自粛の影響は、半年間で40兆円規模に

6月には、緊急事態宣言は全地域で解除されることを、現時点ではメインシナリオと考えておきたい。仮に、5都道県で宣言が解除されないとしても、宣言の強制力はかなり低下していき、経済活動は一時期と比べて正常化するだろう。しかし他方で、仮に5都道県で宣言が解除されるとしても、人々が感染を警戒する行動を続けることから、経済活動が一気に元の水準に戻ることも考えにくい。

そこで、6月は4月、5月に緊急事態宣言下で不要不急の消費が消失した状況から、全国で半分の消費が回復されると想定しよう。さらに、7月から9月の3か月間は、4分の3まで消費が回復されると想定する。

こうした前提で考えた場合、4月の緊急事態宣言発令以降の、不要不急の個人消費の抑制は、4月が10.7兆円、5月が11.7兆円、6月が7.0兆円、7月から9月の3か月が、それぞれ3.5兆円、合計では39.9兆円となる。その場合、GDPは合計で7.2%低下し、失業者は164万人増加する計算だ。

国と地方の対立は避けるべき

新型コロナウイルス対策では、都道府県知事の存在感がいつになく高まっている。また、知事らに強いリーダーシップが求められるようになってきている。そうした中、首都圏の知事らは、対策で連携を一層強めている。仮に、首都圏の緊急事態宣言が近いうちに解除された場合、休業要請、外出自粛要請、移動自粛要請などをどのように緩和、解除していくかについて、首都圏の知事らは足並みを揃えていくことになるだろう。

こうしたいわゆる広域連携は、緊急事態宣言、あるいはそれを定める改正新型インフルエンザ特措法では想定されていない。しかし、米国においても、東部州や西海岸の州が、新型コロナウイルス対策で連携する動きを見せている。こうした連携は、基本的には好ましい動きなのではないか。

ところで、緊急事態宣言を巡って、国と地方との対立が表面化した。その発令時には、国と東京都知事との間に対立が生じ、また、緊急事態宣言の解除、休業要請の解除を巡っては、国と大阪府知事との間で対立が表面化した。国民の命が危機に晒されている時に、国と地方政府が対策を巡って激しく対立することは、国民の不安を煽るものであり、控えるべきだ。

緊急事態宣言の法規定の曖昧さも国と地方の対立を助長か

国と地方の対立の背景には、感染拡大の抑え込みと経済活動のバランスについての考え方の違いもある。米国でも保守の共和党政権や共和党系の州知事は、経済活動の再開に前のめりである一方、クオモ・ニューヨーク州知事らは再開に慎重だ。日本でも、東京都知事は政治的にはやや左寄りで緊急事態宣言の解除に慎重、大阪府知事は政治的にはやや右寄りで緊急事態宣言の解除に前向きであり、それぞれ別方向から国との間に意見の違いがある。

しかし、国と地方との対立には、こうした政治的なスタンスの違い、対策の考え方の違いだけでなく、権力争いの側面もあるだろう。そして、緊急事態宣言の法規定の曖昧さも、それを助長しているのである。

緊急事態宣言を発令する権限は政府にあるが、ひとたび発令されれば、具体的に外出自粛要請、休業要請・指示をする権限は都道府県知事へと移る。ところが、国は「総合調整」するという規定も書かれており、これに基づいて国が基本的対処方針を示して、休業要請の範囲の決定などについて、地方の活動を強く牽制したこともあった。

緊急事態宣言を巡っては、休業要請や外出自粛要請に強制力をもたせるように法改正をすることが議論されているが、それよりも、国と地方の権限を巡る法的な曖昧さを解消することの方が、優先度は高いのではないか。

地方主導でより細かいピンポイントの企業・個人支援を

感染拡大防止策と企業・個人の支援策の双方において、より地方主導へと変えていくべきではないか。給付金制度、緊急融資制度、雇用調整助成金制度などの企業・個人への国の支援制度は、申請手続きの煩雑さ、審査の遅れなどから、迅速性を欠く面があることは否めない。

また、現在議論されている2次補正予算では、企業の家賃支払いに焦点をあてた支援制度が検討されている。しかし、家賃水準は地域差がかなり大きい。また、既に独自の家賃支援策を実施している地方公共団体も多い。この点から、企業の家賃支援についても、国が財源を思い切って地方に移譲し、地方の特性や個々の企業の状況をより理解している地方が、その政策を主導すべきではないか。そのためには、(1次)補正予算で1兆円が計上された地方創成特別交付金の金額を、数兆円単位で大幅に増額することも検討すべきだろう。

既に示したように、国内での消費自粛によって個人消費は半年間で40兆円程度も減少する見込みだ。ここから利益分を除く35兆円程度の規模で、行政は企業や個人に支援していくことが必要だ。しかし、(1次)補正予算では、企業・個人への支援の総額は10兆円強と推定される。まだ、25兆円規模の公的支援がまだ必要な計算だ。

そのため、今後も複数回にわたって公的支援策を講じていく必要があるだろう。その際には、次第によりきめ細かい設計へと変えていき、事業継続が難しい企業や生活基盤を失いかけている個人に、ピンポイントで支援が届くように工夫をしていく必要がある。

それに並行する形で、政策の実効性を高める観点からも、地方が支援策をより主導するように、段階的に移行していくことが重要だろう。

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