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世界経済の悪化は国内GDPを年率で11%押し下げる

2020/05/21

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4月の輸出は10年振りの減少幅に

財務省が21日に発表した4月貿易統計で、輸出は前年同月比で-21.9%と、前月の同-11.7%から減少幅を一気に拡大させ、2009年10月以来の大幅な減少を記録した。季節調整値では前月比-10.4%と、2桁の落ち込みとなった。

新型コロナウイルス問題による国内での消費自粛は、既に日本経済に歴史的な悪化をもたらしている。同様に新型コロナウイルス問題を受けた海外経済の悪化の影響が、輸出を通じて日本経済を更に悪化させる局面に入ってきたことを、この4月貿易統計は裏付けていると言える。

米国と並んで最大の輸出先である中国向けの輸出数量は、4月に前年同月比-2.4%と、3月の同-10.3%から減少幅を縮小させた。これは、中国経済が2月を底に、緩やかに回復していることを反映した数字だ。

中国に代わって4月に輸出が急減速したのが、米国とEU向けである。米国向け輸出数量は、3月の前年同月比-15.9%から4月は同-36.8%、EU向け輸出数量は、3月の前年同月比-9.1%から4月は同-27.7%へと、それぞれ劇的な悪化を見せている。

主力輸出品の中で、減少が際立つのが自動車関連だ。4月の自動車輸出は前年同月比-50.6%と半減している(米国向けは同-65.8%、EU向けは同-55.8%、中国向けは同-10.0%)。自動車部品も同-39.2%の大幅減だ。欧米などの都市閉鎖(ロックダウン)の影響から、現地で自動車販売が大幅に落ちたことや、日系の自動車工場が閉鎖に追い込まれたこと等の影響がここから読み取れる。

国内消費自粛の影響に輸出悪化の影響が重なる局面に

内閣府「短期日本経済マクロ計量モデル(2018年度)」を用いて、こうした海外経済の悪化が、波及効果を含めて日本経済にどの程度の悪影響を及ぼすかについて試算してみよう。

中国の実質GDPが、1-3月期に季節調整済前期比年率60%程度(推定)落ち込んだ影響は、日本の実質GDPを同じく年率換算で3.6%押し下げると試算される。他方、中国以外の主要国では、4-6月期に経済は最も悪化すると見込まれるが、中国を除く海外の実質GDPが4-6月期に季節調整済前期比年率30%落ち込むとすると、それは日本の実質GDPを同じく年率で7.5%押し下げると試算される。合計すると、その影響は11.1%にも及ぶ。

試算値は、こうした海外経済の悪化が仮に1年間続く(落ち込んだ後に持ち直さない)場合に、日本の実質GDPが1年間でどの程度押し下げられるかを示すものである。海外経済の急激な悪化が一時的であり、その後に一定程度持ち直せば、日本の2020年GDPへの影響はここまでは大きくはならない。

それでも、海外経済の悪化によって日本経済が被る影響の大きさは、ここから伺い知ることができるだろう。それが、国内での消費自粛の経済悪化効果に重なって表面化してくる局面に、日本経済は入ってきたのである。

ドル調達に支障が生じれば貿易を通じて経済は更に悪化

ところで、日本の貿易活動に関してもう一つ大きなリスクとなるのが、ドルの安定的な調達である。2008年のリーマンショック時には、邦銀によるドルの安定的な調達に支障が生じた。その際、銀行を通じてドルを調達できないリスクが浮上した日本の輸入業者が、ドル建ての輸入代金の支払いへの不安から、一時的に輸入を控える動きを見せた。そのため、原材料輸入が滞り、国内の生産活動が一時的に急減速したのである。

輸入に占めるドル建て契約の比率は、リーマンショック時(2007年下期)の74.7%から、足もとの2019年上期の67.9%とわずかに低下した程度であり、ドル離れはこの10年間で進んでいない。そのため、ドル調達に支障が生じれば、それは再び日本経済に大きな打撃を与えるはずだ。

邦銀等によるドル調達コストは今年3月に急上昇したが、その後は安定を取り戻している。しかし、再び世界が金融不安の状況となれば、ドル需要が一気に高まり、邦銀によるドル調達への不安から日本経済に悪影響が及ぶ可能性がある。こうした点からも、貿易は日本経済にとってのアキレス腱と言えるだろう。

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