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日本銀行は臨時会合で新たな資金供給手段を導入

2020/05/22

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新たな資金供給手段は融資対象が30兆円で6月中に開始

5月22日に日本銀行は金融政策決定会合の臨時会合を開き、中小企業等の資金繰り支援のための「新たな資金供給手段」の導入を決定した。

同制度は、前回4月の定例会合で、「検討を早急に行う」としていたものだ。早期に導入するために、6月の定例の会合を待たずに、今回の臨時会合で決定した。それ以外の金融調節方針、資産買入れ方針といった、いわゆる金融政策については、現状維持となった。これらは、事前予想通りである。

新たな資金供給手段とは、「貸付先が報告する適格融資の残高を限度に、共通担保を担保として、期間1年以内、利率ゼロ%で資金供給を行う制度」である。対象となる適格融資は、「緊急経済対策における無利子・無担保融資や新型コロナウイルス感染症対応として信用保証協会による保証の認定を受けて実行した融資」とされる。また、信用保証が付かない銀行の融資、いわゆる「プロパー融資」でも、前記の融資に準じるものは対象となる。日本銀行はその規模を約30兆円としている。同制度は、6月中に開始される。

日本銀行は小規模事業者に対する小規模銀行の貸出を支援

同制度は、①貸出利率はゼロ%、②利用残高の2倍の金額を「マクロ加算残高」に加算、③利用残高に相当する当座預金への+0.1%の付利、との条件で日本銀行が金融機関に資金を供給する。日本銀行は、金融機関が差し入れる民間債務の担保に対して、これと同じ有利な条件で資金を供給する「新型コロナ対応金融支援特別オペ」を既に導入している。「新たな資金供給手段」は、この「新型コロナ対応金融支援特別オペ」と一体的に運営するという。

前者は、新型コロナ問題で打撃を受けた企業向けの銀行融資に対して、日本銀行が有利な条件でその貸出原資を供給するもの、後者は、民間債務を担保に差し入れれば、同様の有利な条件で銀行に対してその使途を問わずに資金を供給するものだ。

後者の民間債務を多く保有しているのは、比較的規模の大きな銀行と考えられる。これに対して、「新たな資金供給手段」は、日本銀行が受け入れている適格担保すべてが対象となる。日本銀行に差し入れている共通担保がほぼ国債に限られる規模の小さい銀行も、この制度を利用することができる。

日本銀行は、小規模事業者に対する小規模銀行の貸出をより強力に支援するべく、新たな制度を導入するのである。

特別プログラムで日本銀行のバランスシートは一段と拡大

また、日本銀行は、①CP・社債などの買入れ(残高上限約20兆円)、②新型コロナ対応金融支援特別オペ(民間債務担保約25兆円)、③新たな供給手段(適格融資約30兆円)の3つの措置を合わせて「新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム(特別プログラム)」(総枠約75兆円)とし、期間を半年間延長して、2021年3月末とした。

総枠はあくまで上限であるが、このような表示により措置の一体感と規模感を対外的にアピールする狙いがあるだろう。米連邦準備制度理事会(FRB)に範をとっているのかもしれない。

実際に、この特別プログラムのもとで、日本銀行のバラスシートは拡大していくだろう。日本銀行は、長期国債の買入れ策について「年間80兆円のめど」を撤廃し、事実上の無制限としたが、実際には、長期国債の買入れペースを急拡大することはないのではないか。

当面のところは、企業の資金繰りを助ける、この「特別プログラム」を通じたバラスシートの拡大の方が際立つだろう。

2%の物価目標は事実上放棄

日本銀行は、今後の政策方針について、この特別プログラムと国債、ETFなどの資産買入れを通じて、「企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めていく」としている。まさに、この2点こそが、現在の日本銀行の政策目標だ。コロナショックを契機に、2%の物価目標の達成を目指す政策は、事実上放棄されたのである。

今回は、臨時会合という特殊な事情であったためであろうが、対外公表文から、「日本銀行は、2%の物価安定目標の実現を目指し」との表現が外された。これは、2013年に2%の物価安定目標が導入されて以来、初めてのことだ。日本銀行が、2%の物価目標を事実上放棄し、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に最大限注力していることを象徴しているようでもある。そして、この政策目標の事実上の修正は、間違いなく好ましいものだ(コラム「基調的な物価は中期下落トレンドへ:事実上放棄された日銀2%物価目標」、2020年5月22日)。

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