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統計で見るよりも実態はもっと厳しい中国経済

2020/06/12

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中国の失業率はかなり低くとどまる

米国の5月雇用統計で失業率は13.3%と、4月の14.7%から幾分低下したものの、依然として2桁の歴史的高水準にある。また、正社員を希望しながらパートタイムで働くことを強いられている人などを含む、いわゆる広義の失業率は、5月に21.2%と高止まりしている。こうした雇用情勢の急激な悪化が、現在全米各地に広がるデモの一因を成している。雇用情勢の悪化が、社会不安を引き起こしている面がある。

これと比べると、公式統計に見る中国の雇用情勢はかなり安定している。失業率は今年1月の5.3%から2月に6.2%まで上昇したが、最新の4月には6.0%へと低下している。コロナ感染抑止のために、他国と比べてもより厳しい規制措置、ロックダウン(都市封鎖)を講じた中国にしては、失業率の水準はかなり低くとどまっているという違和感は否めない。

ここには、失業者に計上される範囲が狭い、という技術的な問題がある。景気後退時に真っ先に雇用調整が行われやすい約1億7,400万人の地方からの出稼ぎ労働者が、地方に戻されてもなお失業者としてはカウントされないのである。

地方からの出稼ぎ労働者は、都市部の労働者全体の3分の1近くに上るが、失業率のデータは、都市部の住民のみを調査対象としており、多くの出稼ぎ労働者は対象外だ。出稼ぎ労働者は、都市で仕事を失っても、地元に戻れば土地を持っているため、農業で収入が得られるとして、失業者としてカウントされないようだ。

広義の失業率は中国でもかなり高い

しかし、これは実態とは大きく異なるだろう。コロナショックを受けて、都市で働く多くの出稼ぎ労働者は地方に戻されたが、地元では失職状態を続けているケースが多いと見られる。いったん出稼ぎで都市に出ると、地元で農業を再開することは、多くの場合には難しいためである。

あるいは、都市に戻っても、出稼ぎ労働者はパートタイム労働などを強いられるケースが多いようだ。

オーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)は、中国の4月の失業者と不完全就業者(パートタイム労働を強いられている人や積極的に求職していない人を含む)を合計した広義の失業率は、16%前後になると計算している。

またBNPパリバは、解雇された出稼ぎ労働者を失業者とみなすと、最大で1億3,200万人の中国人労働者が、今年のある時点で失業、一時解雇、あるいは一時帰休させられたと推測している。これは、都市部の労働者の約30%にも達する。

このように、失業者の概念をより実態に即した形へと修正してみると、米国と中国の雇用情勢の差は小さくなる。経済の再開は中国の方が先ではあったが、海外経済の悪化を映して輸出環境が厳しいことが、中国の雇用環境の改善を引き続き妨げている。

社債のデフォルトは裏技で回避されている

中国で、統計あるいは表面的な事実が必ずしも実態を反映していない例として、もう一つ注目しておきたいのは、社債のデフォルト(債務不履行)である。

未曽有の景気悪化にも関わらず、中国では米国のレンタカー大手のハーツや小売大手のJCペニーのような有力企業の破綻は、今のところは見られていない。4-6月期には、これまでのところ、非金融企業の元建て社債のデフォルトは合計6億2,600万ドル程度にとどまっている。

その背景には、一部の中国企業が、社債の返済猶予、早期償還を求める権利の放棄、新たな長期債との交換など、いわば裏技を使っていることによる面があるようだ。

例えば、繊維大手の山東如意科技集団は3月に、償還を迎える元建て社債の保有者に相対で利払いを行なうとともに、相対の交渉を通じて、6月まで支払いを猶予することを受け入れてもらったという。

社債の保有者に対して、プットオプションを行使しないよう要請している企業もある。プットオプションは中国の社債市場では一般的に利用されており、社債の保有者投はこれにより早期償還を請求することが可能となっている。その権利を放棄するように、企業が働きかけるのである。また、償還を迎えた社債を、新たな債券と交換している企業もある。

中国経済の実態をつかめ

中国企業が発行する社債の有力な保有者は中国銀行だ。銀行は、企業の融資返済を先延ばしにすることで、デフォルトを起こさないように協力しているのである。銀行が、企業に当面は融資返済を強要しないように当局から指導を受けていることが、その背後にあるという。つまり、政府の指導で、企業のデフォルトが抑えられているという面があるのだろう。

しかしこうした措置は、問題先送りの側面も強い。銀行の支払い猶予期間の大半が期限を迎える来年には、デフォルトが増える可能性があるようだ。

このように、表面的な数字で見るよりも、中国経済の実態は依然として厳しく、それは金融市場、金融システムの不安定に繋がるリスクを内包している。またそれは、世界経済にとっての大きなリスクでもあるだろう。

感染拡大収束後の世界経済を占ううえでも、表面的な数字の裏にある中国経済の実態をしっかりと把握するように努めることが重要だ。


(参考資料)
“Some Economists Question Strength of China’s Labor Market”, Wall Street Journal, June 9, 2020
“China’s Economy Is Worse Than It Looks”, Wall Street Journal, June 2, 2020
“China’s Companies Find Ways to Avoid Bond Blowups”, Wall Street Journal, June 11, 2020

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