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改正金融機能強化法で地域金融と地域経済を支える

2020/06/15

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コロナショック下で地域経済・企業支援の重責を担う地域金融機関

2020年3月期決算は、上場している地方銀行の7割以上が減益あるいは赤字という厳しい結果となった。今期2021年3月期の収益環境には、コロナショックの悪影響がさらに強まることになる。今期の見通しでも、減益予想が地方銀行の7割を占めている。

このように、従来にも増して地方銀行の経営環境は厳しくなっているが、その中でも、コロナショックによって大きな打撃を受けている地域経済、企業を支えるという重責を担い続けることが期待されている。

地方銀行の2020年3月期決算では、コロナショック後の株価下落を受けた保有株式の評価損の計上と、融資先の経営悪化に備えた貸倒引当金など与信費用の増加が重なって、業績がかなり悪化した。

ただし、貸倒引当金を積む姿勢には、各行間でかなり格差があるようだ。例えばある大手地方銀行は、2020年3月期決算で予想外の規模で貸倒引当金を積み増した。それは、実際に貸出に焦げ付きが生じた、あるいはそのリスクが明確に高まったため、というよりも、予防的な措置であり、先行きの財務の健全性を維持するための取り組みである。

貸倒引当金計上に銀行間で格差

そこには、「フォワードルッキング引当」と呼ばれる新たな手法が用いられている。企業の業績悪化が確認された後に引き当ての積み増しを実施するのが従来型の手法であるが、「フォワードルッキング引当」は、マクロの経済環境などに基づいて、将来の融資先の信用リスクを推定して引当額を決めるものだ。欧米の大手銀行や日本の大手行も、この手法を採用しているという。

自己資本の水準や収益性などで余裕のある地方銀行は、「フォワードルッキング引当」の手法を採用することも含めて、比較的早めに引き当ての積み増しを実施する傾向が強いだろう。その結果、先行きの経済環境悪化に対する財務の耐性を高めることができる。

これに対して、自己資本の水準や収益性などの点で十分な余裕のない地方銀行では、収益悪化や自己資本比率の低下をもたらす引き当ての積み増しという損失計上に慎重だ。その結果、貸出の焦げ付きや融資先企業の経営悪化が表面化した段階で引き当ての計上を迫られ、一気に収益が悪化、自己資本比率が低下しやすい。

そうした事態に直面した銀行が貸出に慎重な姿勢に転じると、コロナショックを受けた地方企業の経営存続にとって逆風となってしまう。引当金の積み増し姿勢に、地方銀行間で格差が広がっている状況は、コロナショック後の地方経済、企業を支えるという政府の経済政策の観点から、一つの懸念材料となっていよう。

銀行の公的資金注入の申請を促す改正金融機能強化法

おそらく、このような考えもベースにあって、政府は今国会で、地方銀行や信用金庫などに政府が公的資金を注入しやすくする改正金融機能強化法の成立を目指したのだろう。実際、同法案は、6月13日に成立した。

改正法のポイントは主に以下の4点だ。第1に、金融機関が公的資金を申請できる期限が、2022年3月末から2026年3月末まで4年間延長された。コロナショックの影響がかなり長期化した場合でも、向こう5年弱の期間は、同制度が利用できるようになる。

第2に、公的資金注入の資金枠が12兆円から15兆円に拡充された。同制度の下で今まで地方銀行や信用金庫、信用組合に注入された金額は計6,840億円であり、資金枠はまだ余裕がある中での大幅増額となった。いわば予防的対応である。

第3に、銀行が公的資金を申請する際に、事前に求めていた収益目標の策定や経営責任の明確化が不要とされた。収益目標の策定や経営責任が制約となって、銀行が公的資金の申請に慎重となり、深刻な資本不足に陥ってしまうことを回避するための措置だ。また、従来は15年以内を目安としていた返済期限も今回撤廃された。

第4に、従来は支援先の銀行が発行する優先株を取得する形での公的資金の注入であったが、優先株に加えて、劣後債や普通株なども使えるようになった。金融機関の財務の状況に応じて、幅広い選択肢が用意される。支援先の銀行に対して、様々な形での関与ができるような措置と言えるだろう。また、金融機関が国に支払う株式の配当率も引き下げ、負担が減らされる。

改正金融機能強化法は、銀行にとってかなり使いやすい形へと修正された。そこには、長い目で見ればモラルハザードのリスクもあるだろうが、現在の異例の経済環境の下では正当化されるのではないか。

政府は、地方の企業を支援するために、地域金融機関に大きな役割を期待する一方で、必要に応じてその地域金融機関もしっかりと支える、という難しい役割が期待されている。改正金融機能強化法の成立を通じて、政府はそうした難しい政策を実行してくために、かなり早めに手を打った感があり、その点は評価できる。

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