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日銀のイールドカーブ・コントロール(YCC)を値踏みするFRB

2020/06/24

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FRBは半世紀前のYCCの苦い経験を忘れていない

日本銀行が2016年9月に導入したイールドカーブ・コントロール(YCC)に似た枠組みを、米連邦準備制度理事会(FRB)が、年内にも採用するのではないか、との観測が金融市場には根強い。実際、FRB内ではその導入の是非が既に議論されている。FRBがマイナス金利政策を導入する可能性と比べれば、YCCを導入する可能性はより高いものの、それでも導入に向けたハードルはなお相応に高いと考えられる。少なくとも現時点で、導入がほぼ確実と予想することは、リスクが高いと思う。

導入に向けたハードルがなお相応に高いと考えるのは、日本の経験を踏まえても、その経済・物価に与える効果が不確実であることと、コロナ対策で財政拡張政策がとられ国債発行が急増する中で、FRBが長期金利(の上限)にターゲットを設定するYCCをひとたび導入すれば、金利上昇時にFRBが金利上昇の抑制を政府から強く要請され、国債管理政策に事実上組み込まれて独立が強く制限される可能性があるためだ。

経済情勢が改善し、インフレ率の上昇と共に長期金利が高まる局面では、FRBが国債買入れを加速することで金利上昇を抑えるのではなく、YCC導入の目標を達したとしてそれを止めれば良い、と考える向きもあるだろう。しかし、そうした局面でこそ、金利上昇を回避するように政府から強く圧力が掛ったというのが、半世紀以上前の1942年から1951年にかけて、FRBが実際に経験したことだ。

この苦い経験を忘れていないのであれば、FRBは簡単にはYCCを導入しないのではないか、と筆者は考えている(コラム「危機対応を続ける米金融政策:YCC導入の是非がいずれ議論に」、2020年6月10日)。

ニューヨーク連銀の論文は日本のYCCに2つの評価

ところで、6月22日にニューヨーク連銀の2人のエコノミストは、「日本のイールドカーブ・コントロールの経験(Japan’s Experience with Yield Curve Control)」と題する論文を発表した(注1) 。

ここでは、日本銀行のYCCについて、2つの評価を示している。第1はネガティブなもので、YCC導入後も物価上昇率は目立って上昇せず、この点からYCCは成功とは言えない、というものだ。第2はポジティブなものであり、日本銀行は国債の買入れを拡大させることなく、長期金利を安定させることができた、というものだ。

しかし、第2の評価については、日本銀行のYCC導入の狙いなどを十分に理解していないことに基づく面もあると思われる。

FRBがYCCを導入する場合には、長期金利を押し下げる、あるいはイールドカーブをフラット化させることを通じて、景気刺激効果を発揮することが狙いとなる。多方で、日本銀行がYCCを導入した狙いは、日本銀行のバランスシートを急速に拡大させる国債買入れのペースを低下させること、イールドカーブの過度なフラット化を回避すること、の2点であったと筆者は理解している。

前者は政策の出口を非常に困難にさせ、後者は生命保険、年金の資産運用利回りを低下させて個人の消費マインドにも悪影響を生じさせる、という副作用がそれぞれある。

日本銀行が、金融緩和策を修正することなく、大きな副作用を生む国債買入れの増加ペースを抑えるためには、国債買入れを政策目標から外し、政策目標を金利に移す必要があったのである。

日本銀行のYCC導入の狙いはFRBと全く違う

日本銀行が、景気刺激、物価上昇率の押し上げを狙ってYCCを導入したのではないことは、10年金利の目標が0%程度と、その時点での市場実勢を追認した水準に設定されたことからも明らかだ。それがゆえに、国債の買入れ増加ペースを拡大させることなく、むしろ縮小させながら、金利目標を概ね維持できたのだと言える。FRBがYCCを導入する場合には、長期金利の目標を市場実勢よりもかなり低い水準に設定するはずだ。そうでなければ、金融緩和効果は発揮されないからだ。そして、その目標水準を維持するために、国債の買入れをかなり拡大させることが必要となるだろう。

さらに昨年には、日本の10年国債利回りは一時-0.3%と目標値から大きく乖離したことを踏まえれば、YCCの下では国債買入れをあまり増減させなくても、長期金利の安定を維持できる、と考えるのは誤りであり事実に反する。この際には、日本のYCCという枠組みは、崩壊寸前の状態にあったと筆者は考えている。

FRBが、日本の経験を踏まえてYCCの導入の是非を検討しようとするのであれば、その狙いや背景などをより詳細に分析する必要がある。この点で、ニューヨーク連銀の論文は、あまりにも表面的な分析、考察にとどまっている、と言わざるを得ない。

(注1)https://libertystreeteconomics.newyorkfed.org/2020/06/japans-experience-with-yield-curve-control.html

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