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日銀の国債保有比率低下はステルス正常化(1-3月期資金循環)

2020/06/25

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株価下落で個人金融資産は62兆円減少

6月25日に、日本銀行は2020年1-3月期の資金循環統計を公表した。新型コロナ問題を受けて3月に金融市場が大きく混乱した影響が、家計(個人)金融資産の減少などに色濃く表れている。3月末の家計金融資産残高は1,845兆円と2019年12月末の1,907兆円から62兆円減少した。3月の株価下落によって、家計が保有する株式及び投資信託の時価が減少したことが主な要因だ。

他方、民間金融機関の貸出は、昨年12月末の882兆円から今年3月末には909兆円と、27兆円増加した。前年比増加率は+1.8%から+4.4%へと大きく増加している。コロナショックを受けて企業が手元資金を確保するために、銀行からの買入れを増加させたことが背景にある。

銀行貸出が急増

国内(非金融)企業向け貸出は、12月末の前年同期比+3.0%から、3月には同+3.6%へと高まった。企業が手元資金を確保する動きは、CP・社債発行の急増にも表れている。企業の債務証券の発行残高は、12月末の前年同期比+8.4%から、3月には同+14.4%へと急激に高まったのである。

民間金融機関の貸出で際立った増加を見せたのが、海外向け貸出だ。前年同期比は12月末の-3.5%から、3月には同+21.7%へと急増した。その詳細は不明であるが、3月に為替市場で一時的に円安がかなり進んだことで、円換算で見た外貨建て貸出額が増加した影響もあったと推察される。

4-6月期以降は新規国債発行が急増

ところで、手元資金を確保するため、企業による銀行借入、社債の発行拡大は、4-6月期にもその増勢を維持していると見られる。さらに、中小零細企業支援のための政府の実質無利子・無担保貸出制度も、銀行の企業向け貸出を増加させている。また日本銀行による企業支援策も、企業向けの銀行貸出と企業のCP・社債の発行の双方を後押ししている。

国内の資金循環の観点から、コロナショックの影響を受けて4-6月期以降に生じる最も大きな変化は、政府の経済対策の財源として新規国債が大量に発行されることだ。2020年度1次補正予算、2次補正予算によって、新規国債発行額は、合計で57.6兆円増加する。

ところで、日本銀行が2013年4月に導入した「量的・質的金融緩和」のもとで、日本銀行は国債の買入れを拡大させてきた。その結果、国債発行残高に占める日本銀行の保有比率は急速に上昇し、5割に近付いていった。しかし2016年9月に日本銀行がイールドカーブ・コントロールを導入して以降は、買入れ増加ペースは着実に低下を続けていった。2020年3月末時点で、日本銀行の国債保有比率は44.2%である。

日本銀行は今年4月に国債買入れ額を無制限で実施する姿勢を示したが、実際の長期国債買入れ増加ペースは、前年同月差で見て14兆円程度と、年初からほぼ横ばい状態が続いている。

今後、長期金利が顕著に上昇すれば買入れペースを増やす可能性は残されているだろうが、そうでなければ現状ペースを維持するのではないか。これは、国債の買入れ拡大が出口での日本銀行の財務のリスクを高めるなど、副作用に配慮した措置だろう。

今年度末に日本銀行の国債保有比率は38.8%まで低下か

他方、今年度は、1次・2次補正での積み増し分も含め、90.2兆円の新規国債発行が予定されている。こうしたなか、日本銀行が足もとでの国債買入れ増加ペースを今後も維持すれば、国債発行残高に占める日本銀行の保有比率は着実に低下し、2021年3月末には38.8%となる計算だ。これは、2015年の水準である。

このように、コロナ対策で政府が巨額な経済対策を実施し、新規国債発行が急速に増加する中、日本銀行が足もとでの慎重な国債買入れ姿勢を維持すれば、日本銀行の国債保有比率は低下していく。その分、主に国内金融機関の保有比率が高まることになるだろう。

日本銀行が2013年に「量的・質的金融緩和」を導入した際には、日本銀行が国債を大量に買入れることで景気刺激効果を発揮する経路として、大きく2つの点が想定されていた。一つは、日本銀行の国債買入れが長期金利を低下させ、それによって景気刺激効果が発揮されるというもの。もう一つは、銀行の国債保有が減少することを受けて、銀行がリスク性の高い金融商品の保有を増やし、貸出を拡大させることを通じて、景気刺激効果が発揮されるというもの、いわゆるポートフォリオ・リバランス効果である。

これに照らせば、日本銀行の国債保有比率の低下は、「量的・質的金融緩和」の後退を意味する、一種の正常化策である。日本銀行自体は国債買入れペースを変更しなくても、政府の国債発行が増加することによって、結果として正常化が進んでいく、「ステルス正常化策」とも言えるのではないか。

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