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コロナ問題は公的支援拡充を伴いフリーランス増大の原動力に

2020/07/02

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フリーランスも「持続化給付金」制度の対象に

コロナ問題は、政府がフリーランスへの経済的支援を本格的に拡大させるきっかけとなっている。

政府は2020年度1次補正予算で、前年よりも売上げが半減した月がある中小企業が、最大200万円を受け取れる「持続化給付金」制度を設立した。その対象に、フリーランスや自営業者(給付金は最大100万円)が含まれたことは、画期的だった。ただし、事業所得として確定申告をしているフリーランスに限られた。

2次補正予算では、持続化給付金の予算が積み増されるとともに、給付が受けられるフリーランスの対象範囲が拡大された。フリーライターや非常勤講師、ミュージシャンなどを中心に、収入を「給与所得」や「雑所得」として計上している一部のフリーランスも、新たに給付対象となったのである。

全世代型社会保障検討会議でフリーランスの保護が検討

さらに、6月25日に開催された政府の全世代型社会保障検討会議で示された第2次中間報告では、フリーランスの適切な拡大を図るため、支援策やルール整備を検討する方針が示された。

企業と労働者の中間的な形態であるフリーランスには、法律が適用されないことで不利な経済環境に置かれることが多かった。そこで、企業に適用される「独占禁止法」、「下請代金支払遅延等防止法」をフリーランスに適用する一方、労働者に適用される労働関係法をフリーランスに適用することが検討されている。つまり、法改正をすることなく、既存の法規定のもとで、できる限りフリーランスの経済活動を支援しようとしているのである。

フリーランスは、取引先の企業に対して、概して弱い立場に置かれていることが、今回のコロナショックで浮き彫りとなった。明確な契約書が交わされない一方、簡単に取引依頼をキャンセルされてしまう、といった点だ。

そこで、フリーランスを企業とみなし、独占禁止法(優越的地位の乱用)を適用して、フリーランスの取引先の企業が契約書面を交付しない、あるいは十分な記載の契約書面を交付しないことを取り締まることが検討されている。また、取引条件の不当な変更、支払い遅延・減額などを、独占禁止法(優越的地位の乱用)や下請代金支払遅延等防止法を適用することで取り締まることも検討されている。

いずれは法体系の変更が必要に

他方、フリーランスを労働者とみなすことで、労働災害補償保険への加入を促すこと(特別加入制度の対象拡大)も検討されている。

ただし、労災保険の加入拡大だけでは、フリーランスの保護には十分ではないだろう。コロナショックを受けて多くのフリーランスは、失業手当を受給できる雇用保険への加入を望んだのではないか。

米国では、政府が3月に打ち出した緊急救済策に、フリーランスやギグワーカーにも失業保険手当が給付される内容が盛り込まれた。日本では、フリーランスに雇用保険への加入を認めることは、現行法のもとでは難しいのかもしれないが、今後は、現行法の適用にとどまらず、フリーランスを保護する新たな法整備を進めることで、フリーランスにも雇用保険に類する制度を提供することが望ましいのではないか。

民間レベルでもフリーランス支援のサービス、ビジネスが広がる

一般的に社会的信用が低いといわれるフリーランスが賃貸借契約を結びやすくするため、フリーランスが簡単かつ確実に賃貸住宅の入居審査に必要な与信が得られるようなサービスを提供する企業も出てきた。

また、フリーランスが直ぐに報酬を受け取ることができるように、取引先企業向けの請求書を示すことで、その日のうちに報酬を受け取ることができるフリーランス向けの先払いサービスを提供する企業も出てきた。

民間レベルでも、フリーランス支援のサービス、ビジネスが着実に広がっているのである。

リモートワークの経験からフリーランスへ

ところで、コロナ問題を受けてリモートワークを初めて経験した会社員は、フリーランスの疑似体験をしたのではないか。自宅で十分に業務をこなすことが確認でき、また自身の能力に自信を深めた人の中から、より自由な業務環境を望んでフリーランスに転換する人が、この先多く出てくる可能性もあるだろう。

コロナショックの影響を十分に反映していない点には留意が必要だが、内閣官房が今年2月から3月にかけて(2月10日~3月6日)実施したフリーランスへのアンケート調査によると、フリーランスとして働き続けたいとの回答が78.3%も占めた。

働く時間や場所等に関する自由な就業環境や仕事上の人間関係の煩わしさが小さいことなどが、フリーランスを続ける大きな誘因だ。

インターネットなどIT技術の発展が、近年のフリーランスの増加を後押ししてきたが、コロナ問題のもとでのリモートワークの広がり、また外出に伴う感染リスクへの警戒などが、フリーランスの増加を促すことになるのではないか。

日本経済の効率性向上にも寄与

さらに、既に述べたように、政府がフリーランスの保護、支援を一層進めていけば、フリーランスへの転換を考える人も増えるだろう。

複数の政府機関などの推計によると、日本のフリーランスの数は、341万人から472万人程度と、既に労働力人口の5.0%~6.7%にも達する。今後、その数はさらに増加していくだろう。

特定企業に貢献する会社員としては十分に発揮できなかった能力が、複数の企業や個人を相手にするフリーランス業の中で開花することもあるだろう。才能のある人が、フリーランスに転じることでその能力をさらに発揮できれば、それは、日本経済の効率性向上にも寄与することになるだろう。

それは、コロナショックという逆境を順境へと変える、一例ともなるのではないか。

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