フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 米大統領選挙でのバイデン氏勝利のシミュレーションを始めた金融市場

米大統領選挙でのバイデン氏勝利のシミュレーションを始めた金融市場

2020/07/07

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

バイデン氏優位に金融市場は目立った反応をしていない

トランプ大統領は、コロナ問題と人種差別反対デモへの対応を広く批判され、国民からの支持率が低下している。逆に、民主党の大統領候補バイデン氏は、敵失によって支持率を高めている状況だ。

米大統領選挙を予想するネット上の8つのサイトの最新結果(7月3日)を平均したところによると(RealClearPolitics)、バイデン氏の勝利を予想する割合は59%と、概ね過去最高水準にある。他方、トランプ大統領の勝利を予想する割合は23%に過ぎず、バイデン氏に大きく水を開けられている。

さらに、議会選挙においても、民主党が上下両院を制するとの見方が、徐々に増えてきている。大統領選挙及び議会選挙までにはまだ4か月ほどの時間があり、まだ正確な予測は難しい。しかし、以上のような情勢のもとで、金融市場は、バイデン氏の勝利の場合の環境変化のシミュレーションを始めている。

ところで、政権交代が意識される中でも、株式市場など米国の金融市場には目立った変化は生じていないように見える。左派の民主党政権の成立は、一般的には株式市場で嫌気される傾向が強いはずである。

中道派、穏健派のバイデン氏に市場は安心

バイデン氏が勝利すると、他国との協調姿勢が再び重視され、対中貿易戦争などの混乱が収まる、等の期待が市場にあるのではないか。それに加えて、国内の経済政策でも、激変は生じないとの見方があるのだろう。

例えば民主党の大統領候補者選びに臨んでいた左派のウォーレン氏が有利であった時には、株式市場はそれを強く警戒していた。それと比べると、民主党の中でも中道派、穏健派のバイデン氏の経済政策に対して、株式市場はそれほど強くは警戒しないのだろう。

例えば、ウォーレン氏は、IT大手企業のGAFAを解体する考えを示していた。これに対して、バイデン氏のIT企業への政策姿勢は今のところあまり明らかではない。

さらに、民主党の大統領候補者選びが予想外に早く決着したことで、バイデン氏が党内左派の支持を得るために、左派的(リベラル)な政策を積極的に公約に取り込む必要がなかったことも、株式市場の安心材料だろう。

バイデン氏は環境政策に注力

それでも、バイデン氏が大統領選挙に勝利すれば、トランプ政権下で進められた企業寄りの経済政策が一定程度巻き戻される可能性はあるだろう。例えば、トランプ政権は法人税率を35%から21%に引き下げたが、これが半分程度戻される可能性がある。

またバイデン氏は、現在時給7.25ドルの連邦最低賃金を、15ドルまで引き上げることを主張している。

さらに今年4月にバイデン氏は、メディケア(高齢者および障害者向け公的医療保険制度)の対象年齢を、現在の65歳から60歳に引き下げる拡充策を発表した。

バイデン氏が最も力を入れると考えられるのは、環境政策だ。代替エネルギーの推進を通じて、2050年までにゼロ・エミッション(環境を汚染し、気候を混乱させる廃棄物を排出しない)社会の実現を目指している。これは、トランプ政権の政策と180度異なるものとなりそうだ。

コロナショックが政策の激変を緩和

このように、バイデン氏は、比較的穏健ながらも伝統的な民主党が掲げる左派的な経済政策の実現を目指している。しかし、米国経済は現在、コロナショック下での経済危機の状態にある。また、巨額の経済対策の実施によって、米国の財政環境は大きく悪化してしまった。

法人税率の引き上げや最低賃金の引き上げは、企業活動に大きな打撃となることから、現状ではその実施は難しいのではないか。多方、財政環境が悪化していることから、歳出増加を伴う社会保障制度改革にも制約がかかるだろう。

仮にバイデン氏が大統領選挙を制しても、こうしたコロナショック後の経済、財政環境のもとでは、トランプ政権の経済政策を一気にひっくり返すことは難しいのではないか。そのため、環境の激変は生じない、という安心感が、米国金融市場にはあるのだろう。

ただし、政権交代が生じた場合、経済政策で大きく変わる可能性があるのが為替政策だ。トランプ政権のもとでのドル安政策は放棄されよう。急速なドル高は輸出企業に打撃となるが、中長期的にドル高を志向する政策姿勢や緩やかなドル高の進行は、海外からの資金流入を招き、米国の金融市場の安定には追い風となるはずだ。

(参考資料)
"Wall Street starts to picture Biden in the White House", Financial Times, July 4, 2020

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn