フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 コロナ対策で金融政策への国民の評価は高まったか

コロナ対策で金融政策への国民の評価は高まったか

2020/07/07

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

景況感DIと暮らし向きDIの大幅乖離に注目

日本銀行が7月7日に公表した「生活意識調査(2020年6月調査)」は、新型コロナウイルス問題の影響を色濃く反映したものとなったが、その回答は複雑なものである。

景況感DIは、-71.2と前回比で34.9ポイントの大幅悪化となった。その水準は、2008年のリーマンショック時に近いものである。ところが一方で、暮らし向きDIは-37.6と、前回調査からわずか1.5ポイントしか悪化していない。

景況感DIは日本経済の状況、暮らし向きDIは回答者の生活実感を問うものである。コロナショックで景気情勢は悪化しているが、自らの生活にはその影響は大きく及んでないことを示した、と解釈できるだろう。

景況判断(悪化)の根拠について、「自分や家族の収入の状況から」との回答比率が大きく低下する一方、「マスコミ報道を通じて」、「景気関連指標、経済統計をみて」との回答比率が大きく上昇したのは、この点を裏付けている。

コロナショックによる景気悪化は、客観的な事実としては認識しているが、自身の生活には未だ大きな変化は生じていないことから、余裕があり平静を保っている、というのが多くの回答者の状況なのだろう。しかし、今後雇用情勢が全体的に悪化していく中で、生活者の意識も変わっていくと思われる。

金利水準DIは大幅上昇

一方、金利水準の評価も大きく変わった。今回の調査では、「金利が低すぎる」との回答比率が大きく低下する一方、「金利が高すぎる」との回答比率が大きく上昇した。両者の差から計算される金利水準DIは、かつてない水準まで一気に上昇したのである。

従来は、日本銀行の金融緩和策によって銀行預金の金利など、金融資産の運用利回りが低下したことへの不満がこの調査に反映されていたと見られる。しかし、コロナショックによって、そうした不満が緩和された形なのではないか。これは、国民の間での日本銀行の金融政策に対する批判が、一時的にせよ和らいだことを意味しているだろう。

不可解な物価見通しの上方修正

ところで、最も不可解な結果となったのは、物価に対する判断である。1年前と比べた現在の物価、1年後の物価、5年後の物価について、平均値及び中央値はいずれも、前回調査と比べて上昇した(5年後の物価の中央値のみ横ばい)のである。先般公表された短観(6月調査)で、企業の物価見通しが下方修正されたのと対称的だ。

コロナショックによる景気悪化は一時的との認識に加えて、各国で積極的な財政・金融政策が打ち出されているため、それらが先行きの物価上昇率を高める、との見方が背景にあるのかもしれない。ただし、その認識は正しくないと筆者は考える。

実際の物価上昇率は、足もとで下振れており、基調的な消費者物価の上昇率は、向こう3年程度は小幅マイナスの水準で推移する、と筆者は予想している。しかし、このように多くの人が、コロナショックを受けて物価上昇率は先行き上振れると考えているのであれば、日本銀行の2%物価目標が達成できていないことを批判する機運は、今は後退しているだろう。これは日本銀行にとって朗報である。

日本銀行のコロナ対策は一定程度評価されているか

さらに、日本銀行を信頼している理由として、「日本銀行の活動が物価や金融システムの安定に役立っていると思うから」という回答比率が上昇する一方、日本銀行を信頼していない理由として「日本銀行の活動が物価や金融システムの安定に役立っていると思わないから」という回答比率が低下した。これは、現在「特別プログラム」と称している日本銀行のコロナ対策が、一定程度の評価を国民から得ていることを示唆しているのではないか。国難に際して、政府と一体となって、企業・雇用を助けるという政策姿勢が支持されているのだろう。

他方、政府と一体となった企業・雇用の支援策は、日本銀行を信頼していない理由として、「中立の立場で政策が行われていると思わないから」を挙げる回答比率が、今回の調査で高まった点にその弊害は表れているとも言える。

しかし、全体的には、コロナショックに対する日本銀行の政策対応は、国民の間で比較的好意的に受け止められていることが調査から感じ取られる。それでも、短観(6月調査)にも表れていたように、企業の雇用過剰感が急速に高まる中、今後は雇用抑制傾向が強まり、国民の雇用・所得環境に悪影響が及んでくる可能性は高い。さらに、物価上昇率の下振れ傾向もより強まるだろう。そうした際には、日本銀行の政策運営に対する批判は高まっていくかもしれない。

国民の評価が維持されるもと金融政策は現状維持

現状では、コロナショックという未曽有の経済危機のもとで、政府への国民の評価は下がっている感はあるが、日本銀行に対する批判は高まっているようには見えない。日本銀行にとっては、非常に居心地の良い状況なのである。

こうした中、次回7月14、15日の金融政策決定会合では、「特別プログラム」の小幅な拡充措置が仮にあるとしても、追加金融緩和策は実施されず、日本銀行は様子見姿勢を維持する可能性は高い。ただし、日本銀行が国民からの批判を浴びない現状は、嵐の前の静けさに過ぎないかもしれない。

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn