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米国の対中制裁措置も香港金融ビジネスに脅威か

2020/07/08

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香港自治法の成立で米中間での制裁措置の応酬が始まるか

米中対立の次の大きな注目点は、中国による「香港国家安全維持法」制定を受けて、米国が打ち出す追加的な制裁措置の内容である。

米国議会は7月2日に、香港の自治の侵害に関与した中国・香港の当局者や彼らと取引のある金融機関に厳しい制裁を科す、「香港自治法案(Hong Kong Autonomy Act)」を可決した。トランプ大統領の署名をもって同法は発効することになるが、トランプ氏はまだ署名をしていない。

中国は、同法が成立すれば、米国に対して強い制裁措置を発動するとしている。中国が米中貿易合意を履行しないことを怖れるトランプ大統領は、署名を躊躇っているようだ。

しかし、仮に大統領が拒否権を発動して署名を拒んでも、両院が3分の2の多数で再度可決すれば法律になる。同法は超党派による強い支持の下で可決されていることから、大統領の拒否権は覆される可能性が高いだろう。他方、大統領が署名もせず、また拒否権も発動しない場合には、法案の可決・送付後、日曜日を除く10日で、法案は自然と発効する。いずれにせよ、同法は来週には発効して、米中間での制裁の応酬が始まる可能性がありそうだ。

金融機関が制裁対象となる点が重要

米国の香港自治法案で最も注意しておかねばならないのは、香港の自治を侵害した個人・法人と多額の取引のある金融機関を制裁対象としている点である。米機関からの融資の凍結などの罰則が科されることになる。

米国務省が90日以内に香港の自由を侵害した個人・法人を指定し、金融機関には指定された相手との関係遮断に1年間の猶予が与えられるという。対象となる金融機関は、主に中国の銀行が想定されている。

ところが、対象は中国の銀行だけではなく、香港の金融機関や外国金融機関にも広がる可能性があるだろう。その場合、中国の国家安全法ではなく、米国による中国・香港への制裁措置こそが、香港で活動する金融機関の活動を制限し、そのオペレーションの縮小につながる可能性も出てくるのではないか。

さらに、香港の金融機関への制裁措置の影響が、香港のドルペッグ制に及ぶ可能性がある点が非常に重要である。香港のドルペッグ制が見直された場合には、新たな為替リスクの上昇が、香港で活動する金融機関の活動を制限し、香港の国際金融センターとしての地位を低下させる可能性も出てくるだろう。

香港のドルペッグ制度に打撃を与える制裁案が一部で検討

7月8日にブルームバーグ社が報じたところでは、トランプ政権は、現在、対中制裁措置で複数の選択肢を検討しているが、トランプ米大統領の側近の一部は、香港ドルの米ドルとのペッグ制度に打撃を与えることを望み、具体的な措置を検討しているという。

経営陣が国家安全法の支持を表明したHSBC(香港上海銀行)、などが米国の制裁対象となるとの報道もある。HSBCはスタンダードチャータード銀行、中国銀行とともに、香港ドルを発行している。香港ドルの発行額をドル準備額以下に抑え、香港ドルを米ドルに交換することを保証することで、香港ドルの対米ドルレートの安定を実現しているのである。

発券銀行の一部でドル調達が制限されれば、香港のドルペッグ制度は揺らぐことになろう。ドルペッグ制度こそが、外国金融機関の香港ビジネスを支える要であることから、これは香港の金融ビジネスにとって大きな打撃である。

ドルペッグ制度の弱体化は最大級の制裁措置

ブルームバーグ社の報道によれば、こうした案は、ポンペオ国務長官のアドバイザーが幅広い議論を進める中で浮上したものであり、まだホワイトハウスの高官には伝わっておらず、支持を大きく広げてはいないようだという。それが正しければ、直ぐに実行に移されることはないのだろう。

しかし、将来的には米国による最大級の制裁措置として、香港のドルペッグ制度の弱体化策が採用される可能性は、強くは否定できないのではないか。その場合、中国でありながら中国ではない、あるいはバーチャル・チャイナという香港市場の優位性は大きく揺らぎ、国際金融センターとしての競争力低下は加速するのではないか。

少なくとも短期的には、中国の国家安全法よりも、米国の制裁措置の方が、香港の金融ビジネスにとってはより大きな脅威になる、と考えておくべきかもしれない。

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