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G20では、デジタル人民元を巡る米中争いも表面化するか

2020/07/13

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経済政策での各国協調を再確認

G20(主要20か国・地域)財務相・中銀総裁会合が、7月18日にオンライン形式で開かれる。コロナ問題を受けた、経済政策での各国協調が最大の議題となろう。

必要に応じて積極的な追加財政・金融政策を打ち出すこと等が、各国で改めて確認されるだろう。ただし、各国は既にかなりの積極策を実施していることから、それらを評価する、といったメッセージが、共同声明の中心となるのではないか。

コロナショック後に打ち出された、真の意味での国際協調策は、各国中央銀行間での通貨スワップの枠組み拡充を通じた、事実上のドル供給策が唯一と言えるのではないか。

また、今回の会合では、IT企業への新たな国際課税の仕組み、いわゆる「デジタル課税」も議題となるだろう。これについては、昨年6月に大阪で開かれたG20財務相・中央銀行総裁会合で2020年末の合意に向けた基本方針が示されたが、その後、具体策を巡って欧州連合(EU)と米国との間で激しい対立が生じている。

「デジタル課税」を巡って米仏は激しく対立

国際ルールの成立の目途が立たない中、フランスは、独自の「デジタルサービス税」を打ち出したが、これは米国の大手IT企業GAFAを主な標的にするものだ、と米国政府が強く反発し、2019年12月に米通商代表部(USTR)は、米通商法301条に基づきフランス製品に制裁関税を課す手続きを開始した。今年1月に、仏政府が課税を見送る代わりに米側は追加関税の発動を控える「休戦」で合意していた。

しかし、足もとで両国間の対立は再び強まっている。トランプ政権は7月10日に、フランスの「デジタルサービス税」に対抗して、化粧品やハンドバッグなど、同国からの輸入品年13億ドル相当分に25%の制裁関税を課すと発表した。ただし最長で2021年1月6日まで発動を猶予する、としており、フランスとの間での2国間の協議、及び国際デジタル課税を巡る2国間の協議を続ける姿勢を見せている。

今回のG20財務相・中央銀行総裁会合で、「デジタル課税」の議論が進むことは期待しがたい。2020年末としていた合意時期も、先送りは不可避だろう。「デジタル課税」は、昨年大阪で開かれたG20財務相・中央銀行総裁会合で、日本がその議論を主導する姿勢をアピールしていたが、実際には米国とEUとの間の対立が表面化し、日本の影響力、指導力はもはや見られない。

国際的なデジタル通貨の規制を議論

今回の会合では、デジタル通貨も議題となる見込みだ。昨年10月のG7(主要7か国)財務相・中銀総裁会合、G20財務相・中銀総裁会合では、フェイスブックが計画するデジタル通貨「リブラ」を念頭に、グローバル・ステーブルコインに対する強い警戒感が表明された。

しかし、その後、各国の金融規制当局とフェイスブック、あるいはリブラ協会との間で水面下での議論が進み、それを反映してリブラ協会は、今年4月にリブラ計画の大幅見直しを発表した。これは、金融規制当局が受け入れられるものへと、リブラ計画が修正されたことを意味する。

当初、フェイスブックは、主要通貨のバスケットからなる初の本格的なグローバル通貨の発行を計画していた。しかし、国境を越えて利用されるグローバル通貨が、マネーロンダリング(資金洗浄)などに利用されることなどを強く懸念した金融規制当局の意向を受け入れ、少なくとも当初は、単一通貨に連動するデジタル通貨の発行とするなど、計画を大幅に縮小したのである。

しかし、単一通貨といっても、例えばドルに連動したリブラが発行され、それがフェイスブックの関連アプリで簡単に取引できれば、それは世界で広く利用され、事実上のグローバル通貨となる。それは、国境を越えたマネーロンダリングなどの犯罪に利用される可能性があり、懸念されるところだ。

そこで、リブラを受け入れた金融規制当局も、修正リブラやその他、グローバル通貨として広く利用される民間デジタル通貨を規制する、新たなルールを定める必要がある。

共同通信が報じるところでは、今回のG20財務相・中央銀行総裁会合では、国際的に利用されるデジタル通貨について、マネーロンダリングの防止などの規制策が議論される。また、その議論を次回会合の10月に本格化させる方針が、閉会後の共同声明に明記される方向だという。

中国のデジタル人民元を巡る対立も表面化するか

他方、民間のデジタル通貨だけではなく、各国・地域で中銀デジタル通貨発行への機運も高まっており、これも国境を越えて利用される可能性がある、あるいはそれを狙って発行が計画されている。そこで、民間デジタル通貨だけではなく、中銀デジタル通貨も含めたルール作りも必要になってくるだろう。

コロナショックは、米中間の対立をより先鋭化させた。その結果、中国は米国の金融覇権に挑戦し、人民元の国際化を進めるために、中銀デジタル通貨であるデジタル人民元の発行の準備を急いでいる可能性がある。これは、米国にとっては、自らの金融覇権、ドル覇権を脅かしかねない、大きな脅威である。また、他の主要国にとっては、デジタル人民元の利用が自国にも及ぶことで、中国へのデータ流出などが懸念されるところだ。

今回のG20財務相・中央銀行総裁会合では、米国を中心に、主要国が中国のデジタル人民元を牽制する姿勢を見せる可能性があるだろう。米中対立が、この場でも表面化するのである。それでも、中国はデジタル人民元の発行は国内問題、として悠然と受け流すのではないか。

しかし、今後進められるデジタル通貨の国際規制、国際ルールの中で、デジタル人民元を強く規制する流れとなるならば、それに対して中国は激しく抵抗することになるだろう。

中銀デジタル通貨は、いよいよ本格的に、国際覇権争いの主戦場の一つとして浮かび上がるのである。

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