東京除外で減少するGo Toトラベルの消費押し上げ効果は1.5兆円程度か
政府の経済活動再開計画は出鼻をくじかれる
政府は7月16日に、コロナ対策の一環である観光支援事業「Go Toトラベル」について、新型コロナウイルスの新規感染者が急増している東京発着の旅行を除外することを決めた。東京で感染拡大が広がる中でも、政府は直前まで「Go Toトラベル」を全国ベースで実施するとしていたが、地方への感染拡大を警戒する都道府県知事からの批判や、与党内での慎重な意見等を踏まえて、軌道修正を迫られた形だ。
野党からも指摘されている点だが、当初、「Go Toトラベル」は感染拡大が収束した後に実施する計画としていた。それを踏まえれば、現在の感染状況の下での実施には、やや違和感があることは確かである。この点から、感染拡大が収束していない東京を除外するという修正は、妥当な決定だろう。
ただし、今回の軌道修正によって、経済活動再開に向けた政府の取組みは、出鼻をくじかれた感は否めないところだ。
個人消費を8.7兆円、成長率を1.6%押し上げる計算
「Go Toトラベル」の概要を改めて確認すると、これは国内旅行を対象に、宿泊・日帰り旅行代金の半分を国が支援するというものだ。支援額のうち7割は旅行代金の割引に、3割は旅行先で使える地域共通クーポンとして付与される。一人一泊あたり2万円が上限(日帰りは1万円が上限)となる。7月22日から事業が始められ、予算規模は1兆3,500億円である。
支援の対象となる旅行関連消費額の中心は、宿泊代、交通費、飲食費といったサービス消費である。 内閣府の分析によると、サービス消費の価格弾性値は-0.8である。これは、価格が1%低下すると実質サービス消費は0.8%増加する傾向にある、ということを意味している。
ところで、「Go Toトラベル」では旅行費用が半分になる、つまり50%の値下げが実施されるに等しくなるため(上限を超える支出部分は考慮しない)、それは支援の対象となる旅行関連消費を40%増加させる計算だ(支援部分も含む)。
観光庁によれば、日本人の国内旅行の関連消費額は、2017年に21.5兆円と、個人消費全体の7.1%を占めている。これが40%増加すれば、1年間で消費を8.7兆円増加させる。その分だけ、旅行関連企業の売り上げを増加させることになる。これは、1年間のGDP成長率を1.57%押し上げる計算だ。
予算を使い果たせば終了の場合、消費押し上げ2.7兆円、成長率押し上げ0.5%
以上は、「Go Toトラベル」が1年間続けられる場合の経済効果の試算だ。しかし、別の計算方法もある。それは、現時点で「Go Toトラベル」事業の予算は1兆3,500億円と限られているため、それを使い果たした時点で「Go Toトラベル」事業は終了するという前提での計算である。
そうであれば、「Go Toトラベル」事業によって追加で増える旅行関連消費額は、1兆3,500億円の2倍の2兆7,000億円(支援額も含む)と考えられる(上限を超える支出部分は考慮しない)。これは、2020年度のGDP成長率を0.48%押し上げる計算だ。経済効果は、第1の試算値の3割程度となる。
東京除外で減少する景気浮揚効果は、消費1.5兆円、GDP成長率0.3%
ところで、「Go Toトラベル」で東京が除外されることの影響は、どのように考えれば良いのか。第2の試算に従うと、東京に住む人が「Go Toトラベル」を利用できない分、他の地域の人が利用するため、利用金額全体は変わらないだろう。第1の試算によれば、「Go Toトラベル」を利用する需要はかなり大きいことから、東京が除外されても、他地域の人の利用によって、予算は1年以内に消化される可能性が高い。従って、東京除外の影響は生じないことになる。
他方、第1の試算に従う場合には、東京が除外されることによって、景気浮揚効果はその分小さくなる。内閣府の県民経済計算(平成28年度)によると、東京都の都民所得は全国の17.8%である。この比率分だけ、「Go Toトラベル」の利用額が減ると考えれば(感染への警戒から、東京着の旅行は現在かなり少ないとみられるため、ここでは東京発の旅行のみ考慮する)、今回の東京の除外によって、「Go Toトラベル」の消費押し上げ効果は1年間で1.54兆円減少し、1年間のGDP成長率の押し上げ効果を0.28%減らす計算となる。
今後は、東京以外にも除外地域が広がる可能性もあるだろうが、そうした除外措置によって「Go Toトラベル」事業の景気浮揚効果が最終的にどの程度減る可能性があるのかは、「Go Toトラベル」事業が、現在の予算の範囲内で運営されるのか、それとも予算を積み増しつつ、1年間など比較的長く運営されていくのかという、政府の方針によって変わってくるのである。