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NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 緊急事態宣言の再発動で個人消費はどの程度悪化するか

緊急事態宣言の再発動で個人消費はどの程度悪化するか

2020/07/29

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感染拡大抑制と経済活動再開の両立で混乱

「GoToトラベル事業」を巡って、実施直前に東京除外の決定をするなどの混乱が生じたことは、感染拡大抑制と経済活動再開との両立について、政府が明確なストラテジーを持っていないことを印象付けるものとなった。補助金を通じて政府が旅行を強く促すこの事業は、感染拡大のリスクを相応に高める。経済活動の再開策を実施するのであれば、感染拡大リスクがより低い事業から始めるべきではなかったか。

一方で、政府の政策は、経済再開よりも感染拡大抑制に軸足を置くことを基本とすべきではないか。経済活動は、日々の感染リスクの変化に応じて臨機応変に行動を調整する個人の合理的な判断に、より任せた方が良いだろう。「GoToトラベル事業」は、こうした個人の合理的な判断を歪めてしまった面もある。

また、感染リスクが低下すれば、政府が手を差し伸べることなく、個人の行動は変わり、経済活動は自然に再開されていくのである。

V字型回復期待は既に大きく後退

ところで、足もとでの感染再拡大は、先行きの日本経済の見通しに変更を迫るものとなっている。実質GDP成長率は4-6月期に年率20%~30%の歴史的な落ち込みを見せた後、7-9月期以降にはⅤ字型回復に転じる、といった楽観的な見通しは、既に大きく後退している。

4-6月期の大きな落ち込みと比べると、7-9月期の成長率の戻りはかなり弱くなる可能性が高く、「景気は底這い状態を続ける」との表現が妥当ではないかと思われる。日本経済がいつこの底這い状態を脱することができるかは、今後の感染状況に大きく依存している。

他方、感染再拡大を受けて、政府が緊急事態宣言を再発動するかどうかも、今後の消費活動にとってかなり重要である。そこで以下では、この先、緊急事態宣言が再発動される場合に、個人消費、GDPにどの程度の影響が生じるのかを推定した。

「緊急事態宣言が再発動されないケース」では消費は50兆円抑制

不要不急の消費が全国レベルですべて控えられる場合、個人消費は1か月間で13.9兆円減少すると推定される。これは、GDPの2.5%の規模であり、2020年の実質GDP成長率を2.5%押し下げる計算となる。

4月と5月には緊急事態宣言が出されたが、それぞれに宣言が出されていない日もあり、また対象区域が頻繁に変更された。この点を考慮した上での月次の消費抑制効果は、4月は10.7兆円、5月は11.7兆円と推定された。

5月下旬に緊急事態宣言が全区域で解除された後、6月、7月の消費抑制の規模は、不要不急の消費全体の50%まで縮小したと想定した。これが、9月には25%、10月以降は15%まで縮小するとしたのが、「緊急事態宣言が再発動されないケース」である(図表1)。

この場合、4月から12月までの9か月間の消費抑制の規模は、累積で50.4兆円となり、またこれは、2020年の実質GDP成長率を9.1%押し下げる計算となる。

(図表1)シナリオ別消費抑制規模の推定

緊急事態宣言再発動で消費は追加で32~34兆円抑制

以上のベースケースに対して、「緊急事態宣言が8月に再発動されるケース」、「緊急事態宣言が9月に再発動されるケース」の2つのケースを想定しよう。

共に、全国レベルで2か月間緊急事態宣言が続くもとで、不要不急の消費は完全に控えられ、その後は年末にかけて不要不急の消費は50%抑制されることを想定している。

その場合には、9か月間の消費抑制の累積規模は、それぞれ84.5兆円、82.4兆円となる。ベースケースに対して、個人消費は32~34兆円程度下振れる計算だ。また、2020年の実質GDP成長率はそれぞれ15.2%、14.8%押し下げられる。

(図表2)消費抑制の累積効果とGDP押し下げ効果

景気は「U字型」、「L字型」に

さらにこの両ケースでは、7-9月期の個人消費は、前期比で小幅にマイナスが続くことになる。7-9月期も日本経済は底這い状態を続け、景気のパターンは「U字型」あるいは「L字型」の様相を強めるのである。

このように、緊急事態宣言の再発動は、消費自粛傾向を再び強め、先行きの経済見通しを明確に悪化させることになるだろう。この点を踏まえれば、政府が緊急事態宣言の再発動に慎重な姿勢を続けていることも理解できるところだ。

しかし、国民の健康と生命を守ることを最優先の政策とするならば、緊急事態宣言の再発動を選択肢から外すべきではないだろう。一定程度感染リスクを低下させない限り、経済活動の正常化もまた望めないのである。

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