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コロナショックを追い風にするGAFAと米議会との対決

2020/07/31

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コロナショックを追い風に他社との差を広げるGAFA

新型コロナウイルス問題で、世界的に企業活動が停滞を続けている。しかしそうした中、人々の在宅勤務の広がりや巣ごもり需要の増加を追い風に、米国の巨大IT企業、GAFA(グーグル、アマゾン・ドット・コム、フェイスブック、アップル)の業績は好調を維持している。電子商取引やクラウドサービス、SNS(ソーシャルメディア)、在宅勤務などに不可欠なデバイスなどの需要はすべて高まっており、その傾向は当面続きそうだ。

巨額の投資でイノベーションを引き起こし、それを巨額の利益へと変える好循環を進めながら市場シェアを拡大させていくというのが、GAFAのビジネスモデルだ。GAFAのR&D投資は、新型コロナウイルス問題が広がって以降も、増加を続けている。GAFAにマイクロソフトを加えた5社は1-3月期に290億ドルものR&D投資を行った。前年同期比+17%である。その規模は、米航空宇宙局(NASA)の年間予算を超えている。新型コロナウイルス問題の下で、競合他社との差は一層開いているのである。

米議会下院司法委員会がGAFAの公聴会

そうしたタイミングで、GAFAの4人のCEOが揃い、テレビ会議方式で議会公聴会が実施された。これは、反トラスト法(独占禁止法)に基づいてGAFAを調査してきた米議会下院司法委員会が、7月29日に開いたものだ。

GAFAは、巨大な資本力で競合企業を買収したり、またネット通販やアプリを展開する事業者に不利な取引を迫ったりしているとして、司法省、連邦取引委員会(FTC)、州の司法長官など、複数の当局が同時に調査を進めている。この下院司法委員会も数年にわたり独自に調査を実施してきた。

GAFAに対する議員らの攻撃対象は、それぞれ異なっている。フェイスブックについては、過去の企業買収、特に2012年のインスタグラム買収が、競合つぶしの目的で実施されたもので、反トラスト法違反であるとの指摘が議員からなされた。

アップルについては、アプリ配信サービスのアップストア上では、同社のサービスと競合する他社のアプリが不公平な扱いを受けている、アップルがアプリ審査の権限を使って競合他社を潰している、との批判がなされた。またグーグルについては、検索サービスで圧倒的なシェアを武器に他社サービスを排除している、との批判がなされた。そしてアマゾンについては、同社のネット通販サイトで扱う外部事業者の競合商品の販売データを、不正に利用していたことが問題視されている。

GAFAは自社の米国への貢献をアピール

議員からの批判を受けて、各社のCEOらは、自社が必ずしも市場を独占、寡占してないこと、競争条件は厳しいことを指摘する一方、自社が米国の雇用拡大に貢献し、またAIなどの革新的技術の分野で米国が国際競争力を維持することに大きく寄与していることを強調した。

フェイスブックのザッカーバーグCEOは、同社が民主主義や表現の自由を重んじる米国の価値観を体現する企業である一方、中国がまったく異なる考え方で独自のインターネット世界を構築しているとして、中国との対抗上、米国にとって自社が重要であることを強調している。中国の脅威を強調することで自社のビジネスへの支持を得ようとする戦略は、フェイスブックがデジタル通貨リブラでも見せた手法である。

独占・寡占体制を解消するために、GAFAを解体すべきとの議論もある。例えば、アマゾンのウェブサービス部門と小売り部門を分離する、フェイスブックを解体して買収企業ごとに分割する、などだ。この点を踏まえて、会社の規模が大きいことの利点を説く発言も、各社のCEOから聞かれた。フェイスブックのザッカーバーグCEOは、誤情報の拡散防止などは会社の規模が大きいからこそ可能なのだと力説している。

それでも、GAFA解体論は議会にも根強く残っている。公聴会の終わりにシシリン委員長は、幾つかの企業は分割されるべきだ、と述べた。また、GAFAの中でもグーグルに対する反トラスト調査は最も進んだ段階にあり、司法省は今夏にも提訴に踏み切るとみられている。

消費者の支持をよりどころにする戦略

このように、GAFAと政府、議会、司法との対立はなおも続く。その際に、GAFA側が最後のよりどころとするのは、消費者の支持であるだろう。

反トラスト法は、独占・寡占が不当な高い価格の設定などを通じて、消費者に不利益をもたらしていることを取り締まることを主に目指す法制だ。しかし、GAFAのビジネスは低価格、無料で提供されることから、伝統的な反トラスト法で取り締まることは難しい面がある。GAFAのビジネスが、消費者に不利益をもたらしていないことが証明されれば、市場占有率が高くても、反トラスト法で取り締まることは容易ではないだろう。

そこで、GAFAなどIT各社は、新型コロナウイルス問題を受けた社会的な貢献をアピールし始めている。マイクロソフトは、医療従事者を支援するサービスを開始する。アマゾンは、同社の4-6月期の利益分をすべて、新型コロナウイルス感染症対策に費やす考えを伝えた。さらに人が密集するのを避けるため、発送センターの自動化技術の開発を進めることも検討している。

GAFAはその社会的な意義を消費者に強くアピールし、消費者からの支持を得ようとする試みは、今後も強化していくだろう。新型コロナウイルス問題は、その好機ともなっている。

この点からみてもまた、新型コロナウイルス問題はGAFAに追い風となっている面がある。

(参考資料)
"Not Even a Pandemic Can Slow Down the Biggest Tech Giants&rdquo", Wall Street Journal, May 26, 2020
"Big Tech to Appear Before Congress on Wednesday", Wall Street Journal, July 29, 2020
「独占の弊害、米議会が追及 IT4社首脳が公聴会に-5時間半の激しい応酬」、日本経済新聞電子版、2020年7月30日

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