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底這い続く国内景気と長期化する雇用情勢の悪化

2020/07/31

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5月が景気の「谷」との見方が広がる

7月31日に経済産業省が発表した6月分鉱工業生産(速報)は、前月比+2.7%と事前予想の平均値である+1.0%程度を上回り、5か月振りの増加となった。また、同日に総務省が発表した6月分労働力調査で、失業率(季節調整値)は2.8%と、前月の2.9%から予想外の低下となった。

これらを受けて、暫定的に2018年10月に「山」を付けたと判定された国内景気は、2020年5月に「谷」を打った、との見方が広がっている。

しかし、景気が「底」に達したということと、底離れをして回復に転じるということとは別である。国内景気は5月頃にいったん「底」に達したが、その後も底這い状態を続けていると考えられる。感染拡大の状況次第では、景気の「谷」はさらに後ずれする可能性もまだ十分に残されている。

実質GDPは4-6月期に年率30%近くの歴史的悪化となった見通しだが、7-9月期の成長率は年率+1ケタ台とかなり低めの成長率にとどまる可能性もあるだろう。

仮に8月に緊急事態宣言が再び発動されれば、不要不急の消費は強く抑制され、7-9月期の実質個人消費が小幅ながらも前期比でマイナスの基調を続ける可能性もある(当コラム「緊急事態宣言の再発動で個人消費はどの程度悪化するか」、2020年7月29日)。

自営業主・家族従業者は増加も非正規社員削減は急増

6月の失業率は2.8%と予想外の低下となった。しかし、これをもって雇用環境が改善に転じたと考えるのは誤りだ。

注目されるのは、就業者数と雇用者数の変化の乖離である。就業者数(季節調整値)は前月比8万人と2か月連続で増加したが、他方で雇用者数(季節調整値)は前月比13万人減少と3か月連続で減少している。就業者数に含まれて雇用者数に含まれないのは、自営業主・家族従業者である。

一時的に休業していた飲食店などが営業を再開したことが、家族従業者の増加につながっている可能性が考えられる。

他方で、企業に勤める雇用者の削減幅はなお加速している。特に、パート、アルバイト、契約社員を中心とする非正規社員の解雇は急増を続けているのである。

休業者は減少

失業予備軍とも言える休業者(原計数)は、6月に236万人と5月の423万人から減少した。休業手当を受け取り、自宅待機を命じられていた社員を、企業が再び呼び戻すなどの動きが出て来たことを反映していよう。

他方、この数字にも、自営業者の店舗の営業状況を反映した面がある。この休業者には、厚生労働省によれば「自営業主で、自分の経営する事業を持ったままで、その仕事を休み始めてから30日にならない者」が休業者に含まれる。店舗の休業期間が30日以内で終わった自営業者は、休業者から通常の就業者に分類が変わる。また、店舗の休業が30日を超えると、休業者から非労働力人口へと新たに分類されると見られる。こうした自営業者の店舗の営業状況が休業者数に影響することから、休業者の減少が、単純に雇用情勢の改善を意味するとは判断できないだろう。

ちなみに、厚生労働省によれば「家族従業者で調査期間中に少しも仕事をしなかった者は、休業者とはならず、完全失業者又は非労働力人口のいずれかとなる」。

6月に失業者や非労働力人口が減少した背景には、飲食店などの営業再開で家族従業者が再び働き始めたことも影響したのだろう。

有効求人倍率は急速な悪化が続く

他方、厚生労働省が公表した6月分一般職業紹介状況は、雇用情勢が急速に悪化していることを裏付けている。有効求人倍率(季節調整値)は1.11倍と5月の1.20から大幅に低下した。月間有効求人数(季節調整値)が前月比-1.9%と減少する一方、月間有効求職者数(季節調整値)が前月比5.4%と大幅に増加していることから、労働市場に需給関係を示す有効求人倍率が大幅な悪化傾向を辿っているのである。失業者が仕事を見つけるのは、難しい環境である。

6月の有効求人倍率(季節調整値)は1年前の6月と比べて0.50低い水準にあるが、前年との差は今後も拡大する可能性が高い。リーマンショック後の2009年の有効求人倍率は前年差で-0.41となったが、これをかなり上回るペースで有効求人倍率は悪化している。恐らくその悪化ペースは、第1次オイルショック以来となるのではないか。

雇用情勢の悪化はこれからが本番

国内景気は5月にとりあえず「底」に達したと見られるが、それ以降の回復の道筋は未だ見えていない。4-6月期の歴史的な悪化の後も持ち直しが緩やかな「U字型」あるいは「L字型」の景気パターンとなれば、需給ギャップが極めて悪化した状態が長期化する。その場合、景気情勢に遅れて、企業が倒産、廃業に追いこまれ、雇用が削減される状況が生じるだろう。雇用情勢の悪化は、これからがまさに本番である。

需給ギャップが悪化した状態が長く続けば、企業のストック調整、つまり設備投資や雇用を抑制する動きも強まることになる。その結果、失業率は来年にかけてかなり上昇する余地を残しているだろう。足もとの統計でも、雇用の削減は非正規社員から正規社員へ広がる傾向が見られている。これも雇用調整が本格化してきた兆候である。また需給ギャップが悪化した状態が長く続けば、賃金上昇率の下振れやインフレ率の下振れのリスクも高まる。

現在、人々の関心は景気の「底」のタイミングに向けられている感があるが、やや長い目で見た日本経済の状況は、需給ギャップが悪化した状態がどの程度長く続くかによって、大きく左右される。この点から、景気の「底」からの回復ペースや本格的な底離れの時期に、より注意を傾ける必要があるだろう。

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