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アルゼンチンの債務再編交渉が決着

2020/08/06

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債務再編交渉の合意で最悪の事態を回避

アルゼンチン政府は8月4日に、約650億ドル(約6兆9千億円)に上る外貨建て国債の債務再編交渉について、米ブラックロック、フィデリティなどの主要債権団(国債の過半を所有する3つの主要債権者団とその他の主要債権者)と合意に達したことを発表した。4日は政府が設定した交渉期限だった。これによって、アルゼンチンが再び国際金融市場からの資金調達ができなくなるといった最悪の事態は回避された。

アルゼンチンは2018年に通貨危機に見舞われ、2桁のインフレが生じた。そして同年には国際通貨基金(IMF)から、560億ドル規模の金融支援を受け入れている。2019年12月に発足したポピュリスト色の強い左派政権は、IMFや民間債権者との債務再編を最優先課題として取り組む方針を掲げたが、彼らに対する世論の反発を背景に、厳しい態度で交渉に臨んできた。

民間債権者との債務再編交渉は4月に始められたが、新型コロナウイルス問題によって経済環境が劇的に悪化したことを受けて、5月には期限を迎えた約5億ドルの利払いを政府は実行せず、6年ぶり9回目のデフォルト(債務不履行)に陥った。

コロナ問題が合意を助けたか

地元紙は、アルゼンチン政府が合意の直前に、海外債権者が保有する国債を額面1ドルあたり約54.8セント相当の価値にまで減免し、それを新たに発行する債券と交換する案を提示していたことを報じている。

当初、アルゼンチン政府は利払いの62%削減を含む大幅な削減を目指していたという。それと比較すると、アルゼンチン政府側が合意に向けて一定程度譲歩したことが伺える。他方で、合意直前で40%程度の減免を主張していたとされる民間債権者側も、最終的に45%程度の減免を受け入れており、相応に譲歩したと言える。つまり、お互いが譲歩し合い、両者痛み分けの合意になったのである。

新型コロナウイルス問題は、こうした両者の合意を助ける方向に働いたのではないか。アルゼンチンは今年10%程度のマイナス成長に陥る見通しだ。失業率も急上昇し、感染拡大と社会的な不安が広がる中、政府は一定程度譲歩しても、民間債権者との債務再編交渉に早期に決着を付けたかったのである。他方、新型コロナウイルス問題でアルゼンチン経済と社会が大きく混乱する中、民間債権者側も、そうした状況を考慮せざるを得ない、との考えに傾いたと思われる。

他国での債務再編交渉の合意も後押しか

2001年にアルゼンチンは、800億ドル超の債務について、デフォルトを起こした。これは、当時としては最大規模の公的債務のデフォルトであった。その後の債務再編交渉は難航し、法廷闘争にまで持ち込まれ、最終的な解決に至ったのは実に2016年だった。そして、信用力を大きく低下させたアルゼンチンは、国債市場からの資金を調達する道をしばらく閉ざされてしまったのである。

今回、こうした事態が繰り返されなかったことは、アルゼンチンのみならず、世界の金融市場にとっても朗報である。また、この合意は、レバノンなど他国での債務再編交渉の合意も後押しする可能性があるだろう。

今後、アルゼンチンの対外債務問題の焦点は、IMFとの債務返済猶予交渉に移る。アルゼンチン政府は、IMFに対して2021年~2023年に期限がくる債務の返済猶予を望んでいる。他方で政府は、IMFが通常、債務再編の条件として要求する財政再建などの厳しい構造改革を実施しないことを期待しているのである。

IMFが、アルゼンチンの厳しい経済環境を考慮して、緩い条件で債務返済猶予を認める姿勢を見せるかどうかは、依然として予断を許さない。交渉が難航すれば、アルゼンチン国民の間で反IMFの機運が再び盛り上がる可能性もあるだろう。

アルゼンチンの対外債務問題は、民間債権者との債務再編交渉の合意で幕を下ろすことはなく、まだ厳しい道のりが先行き続くことになる。

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