フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 欧米主要銀行はコロナ問題にどう対応しているか

欧米主要銀行はコロナ問題にどう対応しているか

2020/08/07

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

貸倒引当金が大幅に積み増された

欧米主要銀行は、コロナショックへの対応に翻弄され続けている。コロナショックの影響が本格的に反映され始めた4-6月期決算では、不良債権の引当費用が増大する一方、その収益への悪影響がトレーディング収入の増加によって相殺された面があり、必ずしも厳しい決算とはならなかった。しかし、年下期については不確実性が極めて高い状況であり、各行ともに楽観ムードは感じられない。

欧米共に、貸出先のデフォルト(債務不履行)は急増していない。米国大手4行についてみると、総貸付金に占める不良債権の割合は、各行とも未だ1%未満にとどまっている。2008年のリーマン危機後に見られたような同比率の急上昇は、今のところ見られていないのである。

しかしこの低いデフォルト率は、必ずしも貸出先の経済的な実情を反映しているとは言えない。それは、政府による巨額の支援の結果であるからだ。また、コロナ要因で資金返済ができなくなった顧客企業に対し、金融当局は一定の支払猶予を認め、その猶予期間中は不良債権として扱わないことを認めたからでもある。こうした政策効果が剥落してくれば、企業の経営状況は明確に悪化し、倒産、廃業が増えてくる可能性がある。その時点で、銀行の不良債権は増加する。

こうした事態に備えて、主要米銀は貸倒引当金を積み増している。4-6月期決算では、引当額はウェルズ・ファーゴでは約95億ドル、JPモルガンは約90億ドル、シティグループは約79億ドルと、いずれも巨額となり、市場の事前予想を上回った。JPモルガンの内訳では、消費者向け貸し出しが44億ドル、企業向けが46億ドルである。引当金総額は、リーマン・ショック以来最大の規模だ。

貸倒引当金の大幅増加は、年初から適用された新しい貸倒引当金ルールによるところも大きい。先行きのマクロ経済見通しを反映することで、前倒しで回収不能リスクを認識して引当金を算定することが求められるようになったのである。

トレーディング収益は大幅に増加

他方、欧米の主要銀行では、4-6月期にトレーディング収入の増加が収益に貢献した。コロナショックで金融市場のボラティリティが高まり、投資家がポートフォリオの大きな修正に動いたためだ。コロナショックは思わぬ恩恵を、欧米の主要銀行にもたらしたのである。

米銀主要6行では、4-6月期のトレーディング収入が前年比で2倍を超えた。上期のトレーディング収入は約400億ドルとなり、同期の貸倒引当金積み増しの費用600億ドル超の収益悪化効果をかなり打ち消した形である。

欧州では、BNPパリバのトレーディング収入増加が4-6月期に際立った。バークレイズでもトレーディング収入は増加し、その増加率は今年の1-3月期に前年同期比+106%、4-6月期には同+60%に達した。

今年上期の貸倒引当金積み増しとトレーディング収入増加という組み合わせの下では、収益環境は、商業銀業務の割合が高い欧米銀行には逆風、投資銀行業務の割合が高い銀行には追い風、という傾向を生じさせたのである。

自己資本は増加

米銀主要6行は、上期に600億ドル超の貸倒引当金積み増しを実施したにもかかわらず、当期純利益は260億ドルとなり、自己資本は増加した。欧州ではバークレイズを筆頭に、自己資本は年初から増加している。欧米主要銀行の中で例外的に自己資本が年初から減少したのは、ウェルズ・ファーゴのみである。

貸倒引当金が積み増される下で自己資本が増加したのは、既に見たトレーディング収入の増加に助けられた部分があるが、それに加えて、従来、各行が積極的に実施してきた自社株買いを控えたことによる面もある。

また、第3四半期の配当支払いも、米連邦準備制度理事会(FRB)の新たな規則によって、直近4四半期の平均利益水準に制限される。この規則はさらに延長される可能性もあるだろう。欧州中央銀行(ECB)も3月に、今年10月までの配当停止を銀行に要請している。

金融当局は、こうした銀行の株主還元策を制限することによって、自己資本の確保を通じた銀行システムの安定維持を狙っているのである。

さらなるコスト削減が続く

株主還元策の制限なども通じて、現状では欧米の主要銀行は相応に自己資本の水準を維持している。しかし、年下期の状況は全く見通せない状況だ。上期のようにトレーディング収入の大幅増加が続くことは期待できない。

ウェルズ・ファーゴのチャールズ・シャーフCEO(最高経営責任者)は、4-6月期の決済発表時に、「景気低迷の長さと深さへの我々の見方は1~3月期決算時点より大幅に悪化している」と説明した。また、JPモルガンのジェイミー・ダイモンCEOは、「今回は普通の景気後退ではない。実際の後退局面を目にするのはこれからだ」と述べている。

そこで不確実な先行きを前にして、収益確保のために銀行が今できるのは、コスト削減を着実に進めていくことだ。コロナショックによる出張費用の減少や雇用者の在宅勤務によって、多少の経費削減は既に進んでいる。しかし、より長期的かつ大幅な経費削減策が検討されているのである。それは、人員削減や店舗削減などだ。

欧州では、クレディ・スイスやソシエテ・ジェネラルが大規模なコスト削減策を既に発表している。HSBCやドイツは、一度延期した大規模な人員削減計画を復活させようとしている。

欧州の各主要銀行は、遅れて表れてくるコロナショックの影響に身構えている。しかし、それがどの程度の規模や期間になるのかが計り知れないため、果敢に具体策を打ちにくい状況でもある。まさに、見えない敵との難しい闘いを続けているのである。

(参考資料)
"Banking industry braced for further pain", Financial Times, August 6, 2020

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn