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FRBの政策枠組み修正は物価目標の達成を本当に助けるのか

2020/08/11

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FRBは早ければ9月に物価目標政策の新たな方針を発表

米連邦準備制度理事会(FRB)は昨年から、金融政策の枠組みの見直しに関する議論を進めてきた。物価目標政策の新たな方針を示す方向で、既に意見の集約が概ねなされている。コロナショックを受けて、枠組みの見直しの議論は一時的に停止された感があるが、事態が落ち着いてきたことを受けて、早ければ9月15日と16日に予定される米連邦公開市場委員会(FOMC)で新しい方針を打ち出す可能性が高まっている。

パウエル議長は、新しい方針は、「私たちが既に政策で行っている方法を、実際に明文化することだ」と述べている。つまり、全く新しい方針を打ち出すのではなく、FRBが意図していることが金融市場などに正確に理解されていないことを踏まえ、それを正確に市場に伝える、いわば市場とのコミュニケーション改善を目指すものだ。

FRBは2012年に、2%の物価目標を正式に採用した。この目標は、「2%を中心に上下に対称的なもの」とFRBは説明している。しかし、「実際には市場はそれが上下に対称的なものとは理解していない」とFRBは考えているのである。

景気情勢が改善して物価上昇率が目標の2%に近付いてくると、FRBは政策金利の引き上げを始める。他方で、景気情勢が悪化して物価上昇率が2%を大きく下回っても、FRBが物価上昇率押し上げのために極端な金融緩和政策を実施するとは限らない。あるいは、物価上昇率を強く押し上げる有効な手段をFRBは持っていないのである。

物価目標政策は柔軟な運営を

その結果、FRBは2%の物価上昇率の達成を目指しているのではなく、2%の物価上昇率を上限(キャップ)とする政策運営を実施しているように金融市場には見える。そのもとでは、金融市場の予想物価上昇率(インフレ期待)は2%を下回る。実際の物価上昇率は、金融市場あるいは企業・家計の予想物価上昇率で決まる部分があることから、2%の物価目標は容易には達成できない。これがFRBの理解するところである。

筆者は、物価上昇率のトレンドは経済の潜在力等によって影響を受けることから、物価上昇率がFRBが目標とする2%を下回り続けているのは、米国経済の潜在成長率が低下するなど経済構造の変化を背景にしたものであり、中央銀行は、特定の水準の物価目標の達成を金科玉条のごとく目指すことは正しくないと考える。もっと柔軟な政策運営を行うべきだ。

物価上昇率の中長期的な平均が2%程度となるようにする

2%の物価目標は上下双方向に対称的なものであることを明確に示すため、物価上昇率の中長期的な平均水準が2%程度となるように、政策運営を行う方針をFRBは示すだろう。

その場合、景気情勢が悪化して物価上昇率が2%を大きく下回ることを容認する一方、景気情勢が改善する局面では、物価上昇率が2%を大きく上回ることも容認することになる。一つの景気循環の中で、物価上昇率が平均して2%程度となるように政策運営を行うのである。また、そうした方針を示すことで、予想物価上昇率を2%程度に安定させることをFRBは目指すのである。

しかし、既に指摘したように、予想物価上昇率や実際の物価上昇率は、潜在成長率などいわば経済の実力によって決まる部分が大きいと筆者は考える。

それが正しいとすれば、FRBの物価目標政策の修正は、予想物価上昇率や実際の物価上昇率には影響を与えない、無駄な試みのように思われる。無駄に終わるのであればまだ良いが、行き過ぎた金融緩和を助長して、経済や金融の安定性を損ねてしまう可能性がある点が気がかりだ。

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