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米国経済の回復を妨げる与野党経済対策協議の泥沼化

2020/08/18

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郵送投票の是非も議会の争点に

米国の追加経済対策を巡る民主党と共和党との協議が、予想以上に難航している。合意が遅れるほど、米国経済への悪影響が高まり、経済の持ち直しを妨げる要因となる。

共和党主導の上院が提案している追加景気対策は1兆ドル規模であるのに対して、既に民主党主導の下院を通過した対策案の規模は、3兆ドルを超える。民主党は2兆円程度まで減額する考えを示しているが、それでも議論は膠着を続けたまま、議会は9月上旬までの休会に入ってしまった。

11月の大統領・議会選挙が近づく中で、両党ともに安易に譲歩の姿勢を見せづらくなっていることが、議論の進展を妨げている要因だ。さらに、足もとでは、経済対策以外のテーマで両党間の対立は強まり、経済対策の議論の障害ともなっている。それが、郵政公社(USPS)を巡る法案審議である。

11月の大統領選挙では、感染を警戒して有権者が投票所には行かずに、事前の郵便投票が増える可能性が高い。これが、遅配を通じて選挙結果の確定を遅らせるなどの混乱を生じさせる可能性がある。郵送された投票の開票には、通常の開票よりも時間がかかる、という面もある。そこで郵便投票に関して、郵便公社に対する250億ドルの緊急補助金や35億ドルの選挙警備費が議会で審議されている。

ところが、トランプ大統領は、郵便公社に対する追加の補助金を認めない考えを示している。その理由として、郵便投票に反対していることを挙げている。大統領選で郵便投票が増えれば、野党・民主党に有利になるため、また、郵便投票では2重投票(郵便投票と投票所での投票の双方を行う)がなされるなど不正投票のリスクが高まるため、とトランプ大統領は説明している。

この郵政公社への補助金の審議を優先的に行うため、民主党は下院の休会期間を短縮して、週内にも下院を招集する方向で調整を進めている。

既に「財政の崖」が発生

追加の経済対策を巡る両党間の対立が、大統領選挙を睨んで先鋭化し、また議論が泥沼化する中、過去の経済対策が失効することで経済の下振れリスクを高める「財政の崖」が既に7月末に生じている。失業者に対して、週600ドルの失業給付を上乗せする措置が失効したためだ。共和党は同措置の減額を主張する一方、民主党は金額を維持したまま制度を延長することを主張しており、意見は分かれたままだ。

同措置が失効することで、失業給付は毎月456億ドル程度、年率換算で5,470億ドル程度減少する計算だ。これは年間個人所得額の2.9%にも相当する規模であり、影響はかなり大きい。

トランプ大統領が発動した大統領令の問題点

8月8日にトランプ大統領は、失業保険の加算措置を7月までの週600ドルから週400ドルに減額して支給し、そのうち週100ドルは州政府に負担を求めるなどの措置を、自らの権限で行う大統領令に署名した。与野党協議が行き詰まっていたため、議会手続きを経ない異例の手段に踏み切ったものと言える。

トランプ大統領は、3月の国家非常事態宣言に基づいて、政府の災害救援基金から最大440億ドルを流用する方針だ。ただ、財源は1か月分程度しかないとみられ、その経済効果は限定的だ。また、法廷闘争で支出が差し止められる可能性も残されている。

他の大統領令では、年収10万4,000ドル未満の国民について給与税徴収を12月31日まで先送りした。そこには法的な問題はないものの、大統領令で行えるのは徴収の先送りだけであり、免除ではない。税の免除には議会の承認が必要であるため、徴収が先送りされた税金はいずれ納付しなければならない。国民がこの点を理解して入れば、減税措置による景気刺激効果もやはり限定的になるはずだ。

決められない米政府・議会が中国の体制の優位性を世界で印象付ける可能性も

11月の大統領選挙が近づくにつれ、議会審議はより政治色を強め、新型コロナウイルス問題に対応する経済対策でさえ、両党間の審議は容易にまとまらず、泥沼化しやすい。それが、感染再拡大とともに米国経済の先行きの見通しをより厳しくさせているのである。

こうした点は、国難に際しての民主主義の弱点を浮き彫りにしているということもできるだろう。米国で決められない政府、議会の状況が長く続けば、中国の国家資本主義あるいは権威主義の優位性を世界で印象付ける結果となってしまうリスクについても、トランプ政権、米議会は十分に配慮する必要があるのではないか。

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