フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 安倍政権の経済政策継承を強調した菅官房長官

安倍政権の経済政策継承を強調した菅官房長官

2020/09/03

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

総裁選出馬を正式に表明した菅官房長官

菅官房長官は、9月2日午後5時に記者会見を開き、9月14日に予定されている自民党総裁選への出馬を、正式に表明した。総裁選は、前日に出馬を正式表明した岸田氏、石破氏と菅官房長官の3名の争いとなるが、多くの派閥の支持を得ている菅官房長官の優位がもはや揺らがない情勢だ。

菅官房長官の記者会見での発言で明らかにされた最も重要な点は、「安倍政権を継承しさらに前に進める」として、コロナ対策を含め、安倍政権の政策を継承する姿勢である。コロナ問題が広がるこの国難の中、任期半ばで辞任した安倍政権の政策を切れ目なく引き継ぎ、政治空白あるいは混乱を生じさせないことを最優先する姿勢がうかがえた。

コロナ対策と経済政策重視か

他方、経済以外の外交・安全保障分野では、菅官房長官は憲法改正、拉致問題、沖縄基地問題、ロシアとの平和条約締結交渉、日米関係などにも言及したが、独自の政策を強く進めていくとの熱意はあまり感じられなかったように思う。

経済政策を中核に据えてまずは国民の支持を高めた後に、憲法改正などの課題に本格的に取り組むという、第二次安倍政権の初期の姿勢に戻った感もある。菅官房長官は、外交、安全保障政策よりも、まずコロナ対策と経済政策で、国民からの支持を回復させることを優先する考えなのではないか。

財政拡張策が強まる可能性も

経済政策に関連して、岸田氏とは対称的に、菅官房長官が財政健全化、財政立て直しを強調する局面は、記者会見ではなかったように思う。国土強靭化計画の推進を掲げる二階派の影響力が新政権下でより高まる可能性があることを踏まえれば、菅政権のもとで財政拡張の姿勢は安倍政権よりも強まる可能性もあるのではないか。財政環境悪化による弊害が助長されてしまうことが懸念される(コラム「歴史的長期政権はコロナショックを機に経済政策の大幅転換を」、2020年8月19日)。

金融政策に対する強い圧力はないか

他方、金融政策については、「日銀との関係は安倍政権と同様」との発言と、「政府としては金融政策を進めていきたい」というやや意味が不明確な発言が菅官房長官からあった。「日銀との関係は安倍政権と同様」といっても、両者の関係は安倍政権の7年8か月の間に大きく変わったのである。

当初は、日本銀行に物価目標を受け入れさせ、積極的な緩和を要求した。しかし、積極緩和策によっても物価上昇率は顕著に高まらなかったこと等から、次第に、金融政策に対する政権の期待は低下していったのである。そして経済対策の比重は金融政策から財政政策へ、そして賃金引上げ等へと移っていった。

このように、金融政策に対する期待を当初と比べて格段に低下させた現時点での安倍政権の政策姿勢を引き継ぐ、ということであれば、菅政権成立後に、新政権が日本銀行に対して追加的な積極策を強く求めることはないのではないか。

ただし、国債発行の増大が金利上昇リスクを高めないように、日本銀行に対して、国債買入れと低金利政策の維持を求める可能性はあるだろう。

携帯電話の通話料金引き下げと地域金融機関の再編に注意

菅官房長官が記者会見の中で独自色を強調した経済政策は、地方経済の活性化、携帯電話の通話料金引き下げ、地域金融機関の再編、の3点であった。

菅官房長官は、かつて日本の携帯電話の通話料金は割高で4割程度の引き下げ余地があると発言したが、記者会見では、「業者間の競争が働く仕組みをさらに徹底する」とし、さらなる価格引き下げを目指す姿勢を明確にした。

一方、やや乱暴な発言と感じたが、菅官房長官は「地方の銀行は数が多すぎる」と明言した。菅政権成立となれば、地域金融機関の合併・統合を促す考えなのではないか。

このように、菅政権が成立しても、経済政策が大きく変わることはないように思われるが、財政拡張路線が強まり、財政環境がさらに悪化する可能性には留意しておきたい。また、通信会社と地域金融機関のビジネス環境には変化が生じる可能性にも、留意しておきたいところだ。

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn