フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 中国の低所得国向け融資の返済猶予は進むか:アンゴラが試金石に

中国の低所得国向け融資の返済猶予は進むか:アンゴラが試金石に

2020/09/11

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

G20は2021年末まで低所得国債務の返済猶予へ

G20(20か国・地域)財務相・中央銀行総裁会議は、新型コロナウイルス問題で打撃を受けている低所得国に対して、少なくとも2021年末まで債務の返済を猶予する方向で調整に入った。今年4月には、2020年末までの返済猶予を既に決めていた。10月のG20財務相・中央銀行総裁会議で正式決定される見通しだが、そうなれば、今年5月から2021年末までの猶予総額は、100億ドルを超える見通しだ。

先進国主導での低所得国債務問題への対応を難しくしているのは、中国の存在である。以前であれば、債務返済猶予などの交渉は先進国から組織されるパリクラブが中心となって行ってきた。ところが近年は、低所得国に対する中国の融資が拡大したため、中国を含むG20の場で対応することが必要となったのである。

中国が世界銀行を通じて最近初めて開示したところによれば、途上国68か国への中国の融資残高は4年間で1.9倍に急増し、この間の世界銀行の4割増、国際通貨基金(IMF)の1割増を大幅に上回るペースとなった。2018年末の中国の融資残高は1,017億ドルに達し、世界銀行の融資額1,037億ドルに迫っている。

中国の低所得国向け融資は国家戦略の一環

中国の低所得国向け融資は、IMFや世界銀行と比べて金利がかなり高い。それでも低所得国に借入ニーズがあるのは、融資条件が緩いためである。世界銀行からの融資では、環境、人権などの面で厳しい条件が適用される。また、IMFからの融資を受け入れると、厳しい財政規律を求められる。それはしばしば、低所得国の政治基盤を揺るがすことにもなるのである。

そのような背景の下、低所得国は近年、中国からの融資に頼るようになってきた。他方で、中国にとっての低所得国向け融資は、経済、外交、安全保障面での対象国への影響力を高めるための国家戦略の一環である。

今年6月末の国連人権理事会で、日本を含む先進国中心の27か国は、中国が香港の統制強化のために施行した「香港国家安全維持法」を批判する声明を出したが、より多数の53か国は中国を支持した。中国支持には、キューバやパキスタン、カンボジア、アフリカ諸国など、中国が開発資金の融資などで支援する国が多く名を連ねた。

4月のG20財務相・中央銀行総裁会議で2020年末までの低所得国債務返済猶予を決めた際には、中国も同意した。しかし、国家戦略に基づいて低所得国向け融資を行う中国は、G20の債務返済猶予の交渉の方針に従わない、あるいは情報を開示しない、などの批判を浴びた。

他方で中国は、債務の再編を求めていた低所得国20か国について、既にその半数と合意に達したことを明らかにしている。他方、より対応を進める必要があるのは、中国ではなく先進国や世界銀行である、と反論している。

中国とアンゴラとの債務返済猶予の交渉が試金石に

低所得国債務問題への対応では、中国を如何に枠組みに取り込み、各国が足並みを揃えることができるかが、G20の大きな課題となっている。中国を含む低所得国債務問題への対応、という新たな枠組みが上手く機能するかどうかの試金石となっているのが、中国がアンゴラに対して実施した融資について現在進めている返済猶予交渉の行方である。

アンゴラは、過去20年間の中国による対アフリカ融資で最大の融資先で、中国の対アフリカ融資全体の約3分の1を占めている。アンゴラが2020年に期限を迎える債務は約26億ドル、同国のGDPの3.1%に相当する額だ。

アンゴラ中央銀行によると、同国の対外政府債務の残高は約490億ドルで、そのうち45%が中国からの借り入れである。

最終的には、中国はアンゴラに債務返済猶予を認めることになるのではないか。それは、中国を含む形での新しい低所得国債務問題への対応の枠組みで、先例となっていくだろう。

しかし、その背後には、やはり中国の国家戦略が潜んでいるだろう。アンゴラなど資源の豊富な国々との関係を維持することは、資源確保を目指す中国にとっては重要であるからだ。

中国は、米ドルで貸した低所得国向けの債務を、一部免除する代わりに、人民元建てに切り替えることを要求し、人民元の国際化を進めることを検討している、との指摘もある。

中国が加わる形の低所得国債務問題への対応は、中国と他の先進国との間での国家戦略上の軋轢と隣り合わせとなることから、従来と比べて格段に難しいものとなるのではないか。

(参考資料)
「中国対外融資が膨張 途上国へ強まる支配力-【イブニングスクープ】」、日本経済新聞電子版、2020年8月7日
"China backs G20 drive to strike low-income nation debt deals", Financial Times, August 30, 2020

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn