フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 ロンドンからEUへの機能移転を躊躇う金融機関

ロンドンからEUへの機能移転を躊躇う金融機関

2020/09/14

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

新たにECBの監督下に入る外国金融機関

今年1月末のブレグジット実施を受けて、今までロンドンに拠点を置いてきた世界の金融機関は、欧州連合(EU)にその機能を移している。英国で免許をとればすべてのEU加盟国で事業を行うことができる「シングルパスポート・ルール(単一免許制度)」が、適用されなくなる可能性があるためだ。

他方、ブレグジットに伴い、監督機関が英国から欧州中央銀行(ECB)に新たに移る外国(非英国・非EU)金融機関が増えることになる。新たにECBの監督下に入るのは35機関である。このうち10機関は、EUでのオペレーション規模を拡大したことに伴って新たにECBの監督下に入る。

そのうち、欧米大手銀行のゴールドマン・サックス、JPモルガン・チェース、モルガン・スタンレー、UBSは、昨年、ECBの直接的な監督下に入った。その他の機関は、EU各国の金融監督機関とECBとの共同所管となる。

ECBはEU域内への機能移転の遅れを警戒

外国金融機関によるロンドンからEU域内への機能移転が遅れていることを、ECBは金融監督の観点から危惧している。ECBによれば、各銀行が提出した資産移転計画の規模を集計すると、1.2兆ユーロに達するという。それは、2017年末時点でのEU域内拠点の資産規模の4倍にも達する。

しかし、実際に移転された資産規模は、それと比べてかなり小さいようだ。ECBは、EU関連の金融商品やEU顧客に関連した活動については、EU域内の拠点ですべて管理すべきと考えている。また、ブレグジットの移行期間が終了する今年年末までに、人員や資産の移転が遅れると、外国金融機関のEUでの拠点がビジネスとして十分に独り立ちできないことをECBは懸念しているのである。EUで活動する外国金融機関の多くは、リスク・マネジメントやITサービス等の機能について、未だロンドンの親会社に大きく依存している状況だ。

単一免許制度が最終的に認められる可能性を意識

外国金融機関の多くがロンドンからEUへの機能移転を躊躇っている背景には、EUによって英国の「同等性」が認められれば、従来通りに英国が発行する免許で、EU域内でも事業を行うことができる可能性が残されているためだ。

2016年の国民投票でブレグジットが決まった直後、ロンドンでは数万人の金融機関職員が職を失うと予想されていた。しかし、実際には、それは起こっていない。あるドイツの機関は、ブレグジットによって1万人の金融機関職員がドイツ(フランクフルト)に移ると試算していた。ところが現状では、その数は1,500人程度にとどまり、ブレグジットの移行期間が終わった後の推計値も2,000人程度と、当初の見通しを大幅に下方修正している。

ロンドンでの人員削減を大幅に進めると共に、EU域内で職員を新たに相当数採用する、あるいはロンドンから人員を大量に移転させた場合、「シングルパスポート・ルール(単一免許制度)」が認められれば、ロンドンで再び新規雇用を増やす、あるいは、EU域内で採用したばかりの職員を解雇する、等の必要が出てくる。その手間やコストを考えて、金融機関はロンドンからEU域内への人員の移転を躊躇っているのである。

また、EU域内での機能強化を求めるECBの要請は、英国とEUの間の新たな協定の協議をEU側に有利にするための、政治的な戦略の影響を受けている、との不信感を金融機関側は持っている。

このように、外国金融機関のEU域内への機能移転は、まだ様子見が続きそうだ。年末が近づいて、方向性が見えてから動きは一気に加速するのだろう。金融機関のEUでの事業についても、金融監督業務についても、大きな混乱は避けられそうにない。

(参考資料)
"ECB supervisors turn the screw on banks over Brexit plans", Financial Times, September 10, 2020

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn