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菅政権発足は日銀の金融政策を変えるか

2020/09/17

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金融政策は現状維持

日本銀行は、9月17日の金融政策決定会合で、事前予想通りに政策の現状維持を決定した。対外公表文では、国内景気の判断を前回の「きわめて厳しい状態にある」から「持ち直しつつある」へと上方修正された。ただし、これは事前の予想通りである。

景気判断は上方修正されたものの、前回7月の会合から、政策姿勢の変化をうかがわせるようなものは示されていない。日本銀行が近い将来、政策金利や資産買入れの変更などの本格的な追加緩和策を実施することは考えにくい。

比較的近い将来、追加的な措置が実施される可能性があるとすれば、菅新政権が秋以降に実施を検討する3次補正のもとで、企業・雇用の支援策が拡充、修正される場合だろう。その際には、追加緩和策との位置づけではないが、政府との協調を演出する観点からも、日本銀行の資金供給策に何らかの修正がなされる可能性が出てくるだろう。

日本銀行は政策が変わらないことをことさら強調

今回は、前日に発足したばかりの菅新政権のもとで開かれる、初めての金融政策決定会合であった。

新政権の成立が金融政策に即座に影響することは考えにくいところだ。日本銀行は、しばらくの間は、政権が変わっても金融政策には変化がないことをことさら強調する情報発信を実施する可能性が高いだろう。

首相交代と同時に日本銀行が従来の金融緩和の弊害に配慮して、正常化方向へと政策姿勢を変えれば、今までの金融政策が政府の強い影響力の下で実施されていたことを認めることになり、日本銀行の信認を一段と低下させてしまうからだ。また、日本銀行は、政策変更観測から円高が進むことも警戒しているはずだ。

金融政策への政府の影響力は低下へ

金融政策運営に対する姿勢について菅首相は、他の政策と同様に、安倍政権の政策を継承するとの考えを強調している。しかし、安倍前政権が金融政策に強く影響を与えたのは、政権発足直後のみである。その後は、金融政策の効果に対する期待の低下を背景に、金融政策への関心は低下していったように見える。菅政権の経済対策は、金融政策から財政出動へと、より比重を移していくのではないか。

菅首相は、量的な側面を中心に日本銀行に積極的な緩和策の実施を求める、いわゆる「リフレ派」とは距離を置いているとされる。日本銀行の総裁、副総裁、審議委員の人選に大きな影響を与えた浜田宏一・イェール大学名誉教授が、菅政権のもとでは内閣官房参与から外れたことから、今後は、政府がリフレ派を日本銀行に次々に送り込む、ということもなくなるだろう。

さらに、可能性は低いと考えられるが、仮に菅首相が日本銀行に対して極端な金融緩和措置を要請するような場合には、再任された麻生財務相がその防波堤となることが期待されるところだ。長らく現在のポストにいる麻生財務相は、黒田日本銀行総裁とも気脈が通じており、日本銀行の政策への理解もある。この点から、麻生氏の再任を日本銀行は喜んでいることだろう。

「財政ファイナンス」の構図は続く

コロナ対策と脱デフレ対策の柱は、勢い国債発行を財源とする財政出動へと向かいやすくなる。その際に菅政権は、日本銀行に対しては新たな積極緩和策の実施を要求するのではなく、国債の買入れや低金利環境の維持、つまり現在の政策を維持することを通じて、国債利回り上昇のリスクを抑える効果に強く期待するのではないか。

これは、日本銀行が政府の国債管理政策に関与する「財政ファイナンス」に他ならない。そうした副作用の大きい政策は、新政権のもとでも当面は続いてしまうのではないか。

金融政策の自由度は高まるか

しかし、安倍政権の終焉と菅政権の成立は、多少長い目で見れば、日本銀行が金融政策を修正し、また、その自主性や政策の自由度を取り戻していく大きなきっかけになり得るのではないかと思われる(コラム「安倍首相辞任で金融政策は変わるか」、2020年8月31日)。

首相の交代は、黒田総裁の後任人事にも大きな影響を与えると考えられ、この点も日本銀行にとって大きな関心事であろう。安倍前政権下では、日本銀行出身者が総裁に指名される可能性は低かったと思われる。安倍前首相は、デフレを助長したとして、日本銀行の政策運営に対する強い不信感を持っていた。そして、財務省出身の黒田総裁の後任に再び日本銀行出身者を充てれば、いわば金融政策が先祖返りしてしまうことを怖れた、と考えられる。

安倍前首相の辞任、そして政権内でのリフレ派の影響力低下によって、次期総裁が日本銀行出身者から選ばれる可能性が十分に出てきた。日本銀行もそれを強く期待していることだろう。

首相交代を受けて、日本銀行は異例の金融緩和策のリスクを管理・軽減する措置や、事実上の正常化をさらに進めやすくなる。ただし、明確に正常化方向に政策を転じるのは、黒田総裁に代わる次期総裁のもとだろう。そして、次期総裁が日本銀行出身者であれば、そうした政策転換はより容易となるだろう。

資産買入れの抑制、金融機関の収益に配慮したイールドカーブのスティープ化など、将来の次期総裁のもとでの政策転換に向けた地均し、下準備を、日本銀行はコロナショックの影響が薄れてくれば、慎重に進めていくことになるのではないか。

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