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OECDのコロナ経済対策の提言と菅政権の中小企業再編

2020/09/18

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OECDが2020年世界経済見通しを上方修正

経済協力開発機構(OECD)は9月16日に、世界経済見通しの改定値を公表した。前回6月見通しでは、今年4-6月期を底に世界経済が回復していくシナリオと、回復後にコロナ第2波の影響で再び今年10-12月期に2番底を付けるシナリオとの2つを提示していた。

前者のシナリオに基づくと、2020年の世界の成長率見通しは-6.0%であったが、今回はそれを-4.5%へと引き上げた。それでも大恐慌以来の経済の悪化であることは変わらない。前回見通し比で2020年の成長率の予測値は、中国は4.4%ポイント、米国は3.5%ポイントと大幅に引上げられる一方、日本についてはわずか0.2%ポイントの上方修正にとどまっている。

また、OECDは、春に底打ちから回復に転じた経済は、夏に再び鈍化傾向を示していることを指摘しており、楽観論を戒めている。ちなみに今回の報告書のタイトルは、「不確実性と共に生きる(Living with Uncertainty)」である。

OECDはコロナ経済対策の転換を提言

世界経済見通しと共に、報告書の中でOECDは、各国のコロナ経済対策に注文を付けている。これは以前からOECDが主張してきたいわば持論であるが、コロナショックで打撃を受けた企業や雇用を国が支援し続けるだけでは良くない、というものである。こうした救済型の支援策を、OECDは「毛布対応(blanket response)」と呼んでいる。

こうした政策は、企業、雇用を一時的に生き残らせることを助けるが、継続的に生き残らせることにはならない。コロナ問題で消費行動が変容する中、売り上げが簡単にはコロナショック以前の水準には戻らない企業、競争力を失った企業とその従業員を、国のお金で支え続ければ、それはゾンビ企業を大量に生み出し、税金で経済の非効率を支える結果となるだろう。

各国は、そうした単純な支援策(blanket response)から、企業の業種転換や雇用者の転職を支援する政策に新たに国費を投じるよう、いわば構造改革へと政策を転換することが望ましい、とOECDは考えているのだろう。この点については、筆者も全く同感である。

しかし、現時点では、こうしたOECDの主張に耳を貸す国は、多くはないのではないか。みな、企業、雇用を支えることで精いっぱいなのである。

菅政権の「中小企業再編」に注目

そこで、菅新政権のコロナ対策、経済対策についてである。安倍前政権の政策の継承を強く掲げる菅政権が、どのような独自色のある経済政策を打ち出すかは、まだ明らかではない。財政出動、規制緩和、競争政策など、どのようなタイプの政策手段、あるいはそれらの組み合わせを通じて、日本経済、国民生活をどのように改善させていくのか、というグランド・デザインがまだ示されていない。

「行政の縦割り打破」、「携帯通話料金の引き下げ」といった具体案は示されているものの、そうした個別の政策を束ね、体系的なマクロ経済政策として示すところには至っていないのではないか。

また、菅首相が「規制改革」と総括する個別の政策には、「携帯通話料金の引き下げ」など「規制改革」、「規制緩和」とは全く逆に、政府が市場に介入する構造改革が多く含まれており、経済政策がなお十分に整理されていない印象もある(コラム「菅政権の独自の経済政策を検証」、2020年9月16日)。

ところで、菅首相が示す政策の中に「中小企業の再編」というものがある。その詳細は未だ示されていないが、OECDが示唆するような政策がそこに含まれるのであれば、歓迎、評価したい。

生産性向上の重要性

コロナショックで最も深刻な打撃を受けている小売業、飲食業、宿泊業、アミューズメント関連などのサービス業種は、国際比較で日本の生産性が著しく低い、と長らく指摘されてきた代表的業種と重なる。他方、感染リスクへの警戒が長期化することで、消費者はこうした分野での消費水準を従来よりも低下させるだろう。

現時点では、コロナショックで深刻な打撃を受けたこうした分野の企業や雇用を、給付金などを通じて救済するのが正しい政策だと思われる。しかし、売り上げが元の水準に戻らないとすれば、来年以降は、消費行動の変容を背景にする産業構造の変化を先取りする形で、こうした業種での企業の業種転換、労働者の転職を促す政策へと転じていくことが、菅政権には求められる。

そうした政策の取組みや企業の自助努力などを通じて、卸・小売、飲食・宿泊の4業種での生産性水準が、それを大幅に上回っている米国の水準との格差を仮に4分の1縮小することができるだけで、単純計算では、日本の生産性全体を実に8.3%も上昇させる。それは、実質賃金の上昇を通じて、国民生活の質の改善、将来展望の改善にもつながるだろう。

ただし、企業、雇用をしっかりと支援する現在のリベラル的な政策から、こうした保守的な政策へと一気に転換することは容易ではない。それを実施しようとすれば、菅政権は、官庁、企業、労働組合、野党、メディアなどから強い抵抗を受けることも予想される。

そうした抵抗に打ち勝って政策を前進させれば、それは菅政権の独自の経済政策として、評価を高めていくのではないか。ただしその際でも、政府は、国民から託された強い権限に頼って、政策をごり押しで進めるのではなく、丁寧な説明を通じて国民の納得感を最大限得るよう努めることが合わせて必要だろう。

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