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米大統領選挙後に未曽有の混乱リスク

2020/09/28

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トランプ大統領が保守派の最高裁判事を指名

トランプ大統領は26日に、先日死去したリベラル派のギンズバーグ最高裁判事の後任に、保守派の代表格であるエイミー・コニー・バレット連邦控訴裁(高裁)判事を指名した。与党・共和党が多数を占める上院は、できるだけ速やかに承認したい構えである。

トランプ大統領が、野党・民主党の強い反対を押し切って後任判事の指名を急いだのは、11月の大統領選挙の結果の最終判断が、連邦最高裁に委ねられることを想定しているからだ。リベラル派のギンズバーグ最高裁判事が保守派の判事にとって代わられたことで、リベラル派判事3人対保守派判事6人の構図となり、自身に有利な判決が下されることをトランプ大統領は期待している。

トランプ大統領は選挙結果を裁判で争う考え

トランプ大統領は23日の記者会見で、11月3日の大統領選で自らが敗北した場合、それを受け入れずに、選挙結果について裁判で争う可能性を強く示唆している。トランプ大統領は、新型コロナウイルスの感染拡大で郵便投票が増えることによって、選挙結果が民主党に有利となるような不正が横行する、と繰り返し主張してきた。ただし、その根拠は示していない。

トランプ大統領が選挙結果を受け入れず、平和裏に政権移譲が進まない可能性を示唆したことは、民主党だけでなく、共和党内からも批判が出ている。共和党のミッチ・マコネル上院院内総務は、選挙結果がどうなろうと来年1月20日には秩序ある政権移譲が行われ、平和な大統領就任式が行われると約束した。

民主党のペロシ下院議長は、トランプ大統領の姿勢を独裁的であるとの認識を示唆し、トランプ大統領には、北朝鮮やトルコ、ロシアにいるのではないことを思い出させる必要がある、と述べている。

トランプ氏に批判的なことで知られる共和党のロムニー上院議員は、「民主主義の基本は、平和的な権力移譲だ。それがなければ、ベラルーシになる」とツイッターに投稿した。ただし、共和党内でも、最終的には連邦最高裁の判断に任せるとの意見が相応にありそうだ。

11月3日に選挙結果が確定しない可能性は相応に高い

トランプ大統領が不正の温床と指摘する郵便投票が、今回の大統領選挙では相当数に上る可能性が高い。郵便投票は通常の投票に比べて、開封作業により手間がかかる。さらに、投票用紙の署名と事前の有権者登録時の署名とを照合する作業も必要となる。それに加えて、郵便投票が多いと遅配の可能性も出てくる。18州と首都ワシントンでは、投票日の消印があれば翌日以降の到着分についても郵便投票が有効とみなされるようだ。そうなれば、当日に選挙結果は確定しない可能性がある。

トランプ大統領が郵便投票を不正の温床とする考えの一つには、事前に郵便投票を実施した上で、さらに当日も投票所に出向いて投票を行う、いわゆる「二重投票」の存在にあると推察される。実際には、二重投票は集計の際に発見できる仕組みになっていると考えられるが、その確認にもまた時間がかかるのである。

このように、郵便投票が多くなる今回の大統領選挙では、選挙当日に開票作業が終わらず、勝敗が決まらない可能性が相応に高そうだ。

フライングの勝利宣言で大混乱も

米ピュー・リサーチ・センターの世論調査によると、トランプ大統領の支持者のうち80%が選挙当日あるいは期日前に投票所で投票を行なう予定、と回答している。他方、郵便投票をするとの回答は、17%にとどまった。これに対して、バイデン候補の支持者のうち、実に58%と6割近くが郵便投票を行うと回答している。

この点を踏まえると、両者の得票が拮抗する場合には、郵便投票分が十分に反映されない開票初日の速報値ではトランプ大統領が優勢となり、その後、郵便投票分の集計が進むに従って、バイデン候補の得票数がトランプ大統領の得票数に迫っていく、あるいは逆転する、という展開が予想される。

ところが、開票初日の速報値を受けて、トランプ大統領が勝利を既成事実化するために、勝利宣言をしてしまう可能性が相応にある。フェイスブックは、結果が確定する前には政治広告を受け付けない方針を示しており、トランプ大統領によるフライングの勝利宣言がツイッターに投稿できなくする考えだ。

バイデン候補は、こうしたトランプ大統領のフライングの勝利宣言を受け入れることはないと見られることから、その時点で勝敗が決まることはないだろう。しかし、トランプ大統領の勝利宣言やそれに対するバイデン陣営による強い批判を契機に、米国内では大きな混乱が生じる可能性がある。

FBI(連邦捜査局)と米情報機関は、大統領選挙の結果が確定しない混乱に乗じて、国内外の扇動者が、選挙違反に関するフェイクニュースを広め、選挙の正当性を損ねることを画策することを強く警戒している。

選挙結果は司法の判断に委ねられるか

郵便投票分の集計が進む中で、バイデン氏の勝利が確定した場合には、トランプ大統領はそれを受け入れず、選挙結果は不正行為によって歪められたとして、最高裁に提訴する可能性が高いだろう。

バイデン氏が相応の得票差でトランプ大統領に勝利する結果となった場合、広範囲な不正行為によって異なる投票結果となったとの判断が最高裁で下される可能性は低いのではないか。しかし、その判断が下されるまでに時間が掛かることで、米国は大きな混乱が続いてしまう。

2000年の大統領選挙でも、最高裁の判断に委ねられ、結果が1か月も確定しなかったことがある。ただしその際には、民主党のゴア候補が、混乱を収束させるために最終的には自ら敗北を受け入れた、という経緯がある。トランプ大統領は最高裁の判断が下されるまで敗北を受け入れないとすれば、勝敗が決まるまでにはより長い時間が掛かる可能性があるのではないか。

さらに、2000年の大統領選挙では、実際に得票数が拮抗していたことが、選挙結果の確定に時間を要した理由であった。今回、得票数に明確な差があるなかで、不正を理由に現職大統領が敗北を容易に認めないとすれば、民主主義の根幹をなす選挙制度の信頼性は、2000年と比べても格段に傷つくことになるだろう。

それは米国政治・社会を未曽有の混乱に陥れると共に、米国株の大幅安やドルの急落など金融市場に大きな混乱を生じさせる。その影響は米国にとどまらず、世界規模での混乱に繋がるだろう。

(参考資料)
「米大統領選 勝者判明 遅れる恐れ」、東京読売新聞、2020年9月20日

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