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国内経済はV字型回復には遠く、二番底のリスクも(日銀短観・9月調査)

2020/10/01

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景気の底打ちを裏付ける

10月1日に日本銀行が公表した日銀短観(9月調査)で、最も注目を集める大企業・製造業の業況判断DI(現状)は「-27」と、前回比7ポイントの改善となった。事前予想の平均値は、10ポイントの改善だった。この数字は、コロナショックで空前の落ち込みを見せた日本経済が、底打ちから持ち直し局面へと緩やかに転じつつあることを裏付けている。

製造業の持ち直しを牽引しているのが、自動車である。自動車の業況判断DIは、6月調査で前回比-55ポイントと大幅に悪化した後、9月調査では前回比11ポイントと改善し、先行きも33ポイントの改善が見込まれている。

内外市場での自動車のペントアップディマンド(繰越需要)を受けて、国内で挽回生産が進んでおり、これが関連業種を巻き込む形で製造業全体の生産持ち直しを主導している姿が見える。

また、製造業の景況感は、素材型業種に対して、加工型業種の持ち直し傾向がより顕著となっている。

「V字型回復」には遠い弱い回復力

しかし、9月の短観に示された製造業の景況感の改善ペースは、想定以上に弱かった。業況判断DI(現状)の改善幅は事前予想を下回り、前回調査で悪化した分の3割未満の改善にとどまった。これは、コロナショックで大きく落ち込んだ日本経済が、底打ち後も「V字型回復」には遠いことを裏付けていよう。また、中堅、中小企業の景況感の改善幅はより小さくなっている。

経済産業省が前日に発表した8月の鉱工業生産(速報値)は、前月比+1.7%と、自動車が主導する形で3か月連続での増加となった。しかし、増加幅は7月の同+8.7%から大きく鈍化している。また、8月の鉱工業生産の前年同月比は-13.3%と依然としてかなりの低水準にあり、下落以前の水準を取り戻す時期はまだ全く見えてこない状況だ。

今回の短観調査で、大企業・製造業では、2020年度の輸出計画が前回に続いて下方修正されたことも気がかりな点だ。製造業の生産に大きな影響を与える輸出環境も、依然として不透明な状況である。

非製造業には2番底リスクも

一方、非製造業の景況感はより厳しい状況だ。大企業・非製造業の業況判断DI(現状)は「-12」と、前回比5ポイントの小幅改善となった。前回調査でのDIの下落幅25ポイントに対して、わずか2割の改善にとどまっている。7月には政府の旅行刺激策「GOTOトラベル」が始められたが、関連する「宿泊・飲食サービス」の景況感の改善幅は小さく、ほぼ横ばい状況にある。

さらに注目されるのは、先行きの景況感見通しの厳しさである。大企業・非製造業の先行きDIはわずか1ポイントの改善にとどまる一方、中堅企業、中小企業では悪化が見込まれている。全規模で「小売」、「建設」、「情報サービス」などの業種で景況感の悪化が特に際立つが、感染再拡大の影響が反映されているのではないか。

今回の短観調査は、今後の内外での感染状況次第では、日本経済が比較的容易に「2番底」に陥るリスクがあることを示した、と言えるのではないか。

ストック調整が着実に進む

2020年度設備投資計画(全規模・全産業)は-2.7%と、前回6月調査のー0.8%から下方修正された。3月調査時点では、過去(2000~2019年度)の平均を大きく上回る前年度比増加率で始まった同計画は、6月調査で過去の平均水準を下回り、さらに9月調査では乖離幅は一段と拡大した。今回調査では、大企業・製造業の投資計画の下方修正が目立ったが、今後は、中小企業の設備投資の下方修正がより顕著になってくる可能性があるだろう。

他方、雇用環境の改善も遅れている。全規模全産業の雇用判断DIは前回比横ばいと、今回の調査では改善が見られなかった。前回調査で不足から過剰へDIが一気に悪化した製造業では、先行きについても過剰感の解消が見込まれていない。こうしたもとで、企業は先行きの新規雇用をより慎重にするだろう。

新型コロナウイルス問題で急速に悪化した需要が、思ったほど早期には戻らない、あるいは当初の水準まで容易に戻らない、との見方を強める中、企業は先行きの売り上げ見通しの下方修正に対応して、設備や雇用の調整を進め始めている。そして、これがさらなる需要の抑制へとつながっていくだろう。

このように、景気は底打ちしても、その後遺症は深く、またかなり長く残る可能性が高まっているのである。

下方修正が続く物価見通し

厳しい経済環境が続く中で、先行きの物価見通しの下方修正も続いた。全規模全産業の3年後の物価見通しは+0.6%、5年後の物価見通しは+0.8%と、ともに前回調査から0.1%ポイントの下方修正となった。下方修正は2回連続である。日本銀行の物価目標である2%どころか、その半分の1%の達成も中期的に難しいことが示された。

他方、金融政策に関連する他の指標をみると、資金繰り判断DI(全規模全産業)は2ポイントの改善、貸出態度判断DIは横ばいとなった。政府の特別融資制度、日本銀行の銀行への資金供給策によって、双方のDIの悪化に歯止めがかかったことがとりあえず確認された。しかし他方で、明確な改善も確認できなかったのである。

日本銀行の金融政策姿勢は変わらず

今回の短観の調査結果が、日本銀行の政策姿勢に与える影響は限られよう。日本銀行は、コロナショックで大きな打撃を受けた企業と労働者を支援する施策を、現在、政策の柱に据えている。具体的には、政府の無利子・無担保融資制度を側面から支援するため、銀行に対して好条件での資金供給を実施している。当面は、この施策が継続される可能性が高い。

他方で、政策金利の引き下げや資産買入れなどといった通常の金融緩和策については、現時点では追加措置の実施は視野に入っていないと見られる。そもそも追加措置の余地が限られることに加えて、追加措置に伴う副作用、例えば金融機関の収益を圧迫すること、日本銀行の財務リスクを高めること、などを意識しているためだ。

ただし、コロナショック後に事実上棚上げしている、2%の物価目標の達成を目指す政策方針については、いずれかの時点では再開する必要があるだろう。コロナショック後に3年後、5年後の消費者物価見通しは下方修正され、上記のようにいずれも1%をも下回っている状況だ。短期だけではなく、中期的に見ても2%の物価目標達成が現実味を欠くことは誰の目にも明らかだ。

2%の物価目標を、事実上、長期あるいは超長期の目標へと変えていく柔軟化を、日本銀行はどこかの時点では検討していかざるを得ないはずだ。それこそが、将来の金融政策の明示的な正常化に向けた地均しとなるだろう。

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