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感染リスクへの警戒が失業率の上昇ペースを緩やかにしている可能性

2020/10/02

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有効求人倍率1割れの都道府県は12に

10月2日に厚生労働省が発表した8月分「一般職業紹介状況」で、労働需給を示す有効求人倍率は1.04倍と前月から0.04ポイント低下した。2013年以来となる有効求人倍率1割れが、いよいよ目前に迫ってきた。都道府県別(就業地別)に見ると、有効求人倍率が1倍を下回った都道府県は12に及び、前月の7から増加した。コロナ問題で観光関連が大きな打撃を受けている沖縄県の有効求人倍率が、0.74倍と最低水準にある。4月までは、有効求人倍率が1倍を下回る都道府県はなかった。

コロナ問題が深刻になった3月から8月までの5ヶ月間で、有効求人倍率の低下幅は合計で3.5ポイントに達した。これは、2008年10月のリーマンショック後の5ヶ月間での下落幅2.7ポイントを大きく上回っている。悪化のペースは、バブル崩壊後、あるいは第1次オイルショック後に匹敵するものだろう。

失業率の上昇ペースは依然緩やか

他方、10月2日に総務省が発表した8月分「労働力調査」で、同じく労働需給を示す失業率は、3.0%と前月の2.9%から上昇し、やはり労働需給の一段の悪化を裏付けた。

しかし、有効求人倍率の低下ペースと比べて、失業率の上昇ペースは依然として緩やかである(図表1)。リーマンショック後の両者の関係と比べてみると、有効求人倍率の低下幅に対して、失業率の上昇幅は3分の1程度にとどまっているように見える。しかし、失業率の数字ばかりに注目すると、足もとで急速に進んでいる雇用情勢の悪化、労働需給の悪化を過小評価してしまう怖れがあるだろう。

失業率の上昇ペースが緩やかな理由は、コロナショックで職を失った多くの人が、職探しを見合わせることで、失業者ではなく非労働力人口に計上されていることにある。解雇された労働者は、ハローワークで求職活動を申請してそれが認められないと、失業給付を得られず、失業者に計上されないのである。そうした人たちは、学生や主婦と同様に非労働力人口に分類される。

 

(図表1)失業率と有効求人倍率の乖離
 

コロナ問題が失業者の増加を抑えた

4月に就業者数(季節調整値)は、107万人減少した。これは、就業者数の1.6%に相当する、かなり急激な雇用削減である。同時に4月には非労働力人口(季節調整値)が94万人増加した(図表2)。職を失った人の大半が、非労働力人口に計上された可能性が考えられる。

2008年(平成20年)のリーマンショック後にも、就業者数は大きく減少したが、その際には今回のように非労働力人口の急増は見られなかった。それは、解雇された労働者が、迅速に失業者に計上されたからである。

今回、そうなっていないのは、コロナ問題が大きく影響しているだろう。まず、雇用調整助成金制度等も担っているハローワークは深刻な人手不足に直面し、その結果、求職活動、失業保険の申請の承認手続きが遅れた可能性が高い。

さらに、混みあうハローワークで感染するリスクを警戒して、職を失った労働者の中で、ハローワークでの申請を遅らせた者も多かっただろう。

 

(図表2)急増した非労働力人口
 

感染リスクへの警戒が失業率の上昇を緩やかに

さらに、職場での感染リスクを警戒して、求職活動を依然として見合わせている人も多いのではないか。そして近年は、強まる人手不足の中で、高い賃金水準に促されて働き始めた主婦なども多かったと見られる。その結果、非労働力人口から就業者へと大量に人の移動が生じたのである。

そうした人たちの中で、生活を維持するために働く必要性が必ずしも高くはない共働き世帯の主婦などの中では、今回、職を失っても、感染が落ち着くまで次の仕事を探すことを見合わせている人も、現時点においても少なくないのではないか。

このように、感染リスクへの警戒が、失業率の上昇を緩やかにしている面があるとみられる。

失業率は今後顕著に上昇へ

しかし、コロナショックの後遺症が長引く中、政策的な支援によって経営を何とか維持してきた中小・零細企業の中から、この先は、廃業や倒産が一段と増えてくることが予想される。それは、就業者数の減少と失業者数の増加をもたらすことになるだろう。

さらに、感染リスクへの警戒が緩んでくると、再び求職活動を始める人が増加し、そうした人が新たに失業者に計上されて失業率を押し上げるだろう。

このように、有効求人倍率の低下と比べて、現在は緩慢な上昇にとどまっている失業率は、人々の感染リスクへの警戒が緩んでくる中で、むしろこれから顕著に上昇してくる可能性がある。

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