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日本銀行・金融庁の一斉ストレステスト

2020/10/07

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リーマン・ショック後に欧米で広まった一斉ストレステスト

日本銀行は、日本銀行と金融庁が協調して実施している大手行に対する「一斉ストレステスト」の背景、考え方等について、10月6日に公表した日銀レビューで紹介している。

金融当局が作成する共通のストレスシナリオに基づいて大規模銀行がストレステストを実施する一斉ストレステストは、リーマン・ショック後に欧米で急速に広まった政策手法だ。

米国では2011年以降、米連邦準備制度理事会(FRB)が毎年、大規模行に対して一斉ストレステストを実施している。その結果は個別行ごとに公表され、十分な自己資本が確保されているかどうかが検証されるとともに、それに基づく配当や自社株買いなどの資本計画に対する妥当性も検証されている。

英国では、中央銀行のイングランド銀行(BOE)が2014年以降、大規模行に対して毎年、一斉ストレステストを実施している。米国と同様に、個別行の結果が公表される。

欧州では欧州銀行監督機構(EBA)と欧州中央銀行(ECB)が2011年以降、毎年、大規模行に対して一斉ストレステストを実施している。

日本も一斉ストレステストを実施

一方、日本では、当局は一斉ストレステストを実施してこなかった。これは、リーマン・ショック後も欧米のように、銀行経営が大きく揺らぎ、また金融システムが不安定化することが日本ではなかったためである。

90年代から2000年代初頭にかけては、日本が世界の金融不安の中心地であった。この際には、金融庁の金融検査マニュアルなどのもとで、債務者区分の厳格化、不良債権処理などの手法が発展し磨かれていった。この時点では、日本の金融規制手法は、世界の最先端を走っていたのではないか。

しかし、その後、日本の金融システムが安定を取り戻す一方、リーマン・ショックで欧米の銀行経営が揺らぐ中、一斉ストレステストなど、金融行政、金融規制手法においては、日本は欧米に後れを取っていった面がある。

しかし、日本の銀行経営、金融システムは概ね安定を維持しているといっても、人口減少、経済の潜在力低下と日本銀行の金融緩和策を受けた超低金利環境の長期化のもとでの収益性の悪化、またそのもとでの貸出や証券投資における過度なリスクテイクなどを踏まえると、経済、金融環境が変化した際には、日本の銀行の経営環境、金融システムがにわかに不安定化する可能性はある。

こうした点を踏まえて、日本銀行と金融庁は、昨年12月に大手5行(三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループ、三井トラスト・ホールディングス、農林中央金庫)に対して、共通シナリオを提示して、昨年、一斉ストレステストの第1回を実施した。これは非常に評価できるものだ。

当局と金融機関との間に積極的な対話を作り出す起点に

各行で実施されるストレステストと並行して、同じシナリオを用いたストレステストが日本銀行と金融庁によって実施された。この際に役に立ったのは、日本銀行が持つ金融マクロ計量モデル(FMM)である。このモデルには、日本銀行の取り引き先である約360行の財務データが組み込まれており、ストレステストの結果も個別金融機関ごとに得られるという優れたものだ。

同じシナリオの下で実施しても、各行によるストレステストと日本銀行・金融庁によるストレステストの結果に差が生じるのは、モデル化など、リスクの定量化手法における違い、だという。この違いこそが、大手行と当局との対話の起点となり、また大手行に有益な気付きをもたらすことにもなるのだろう。

日本における一斉ストレステストは、個別行の結果は発表されず、また自己資本規制などの規制とも連動していない。しかし、当局と金融機関との間に積極的な対話を作り出すという点で、非常に有益なのではないか。

日本銀行と金融庁は、大手行に対する第2回目の共通シナリオに基づく一斉ストレステスト実施を準備している。今度は、新型コロナウイルス問題を受けた経済・金融環境がベースラインシナリオとなり、それに対して環境が大きく悪化するテール・イベントリスクが設定される。

一斉ストレステストのさらなる発展に期待

コロナショックを受けた金融市場の混乱は一巡したが、ハイイールド債、証券化商品など高リスク資産を中心に、混乱の火種は残っており、いわゆる「第2波」への備えは重要である。この点から、第2回目の一斉ストレステストをこのタイミングで実施するのは有益だろう。

さらに今後については、より経営環境が厳しい、中堅・中小金融機関についても、徐々に一斉ストレステストの対象に加えていき、当局と金融機関との対話強化につなげていって欲しい。

この際にも、日本銀行の金融マクロ計量モデル(FMM)が大いに役に立つのではないか。自らのストレステストの結果を日本銀行の分析結果と比べること、あるいは全体の結果と比べることは、各金融機関にとって非常に有益だろう。

また、日本銀行と金融機関の間での考査契約の範囲では難しい面もあるだろうが、個別行の大量の財務データがリアルタイムで日本銀行に自動集約され、モデル分析に迅速に活用できるような体制を構築することも、将来の検討課題になるのではないか。

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