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米国経済はK字型回復:格差拡大が大統領選挙の争点に

2020/10/13

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10-12月期に米国経済の回復ペースは大幅に低下

ウォール・ストリート・ジャーナル紙による最新のエコノミスト調査によると、米国の7-9月期実質GDPの平均予想値は、前期比年率換算で+23.9%となった。足もとでは年率+30%程度との予測も出ている。4-6月期の実質GDPは前期比年率換算で-32.9%であったことから、7-9月期に米国経済は「Ⅴ字型」回復に近い姿を見せたと言えるだろう。日本の場合には、7-9月期の実質GDPは4-6月期の落ち込みの3分の1程度を取り戻す程度、と現時点で筆者は予想している。これと比べると、米国経済の戻りはかなり順調に見える。

ところが、今年の10-12月期以降の状況を見ると、米国経済は「Ⅴ字型」回復とは言えないだろう。10-12月期の実質GDP成長率は、顕著な鈍化が見込まれる。景気回復は足踏みし始めたのである。そこには、3月以降の経済対策が失効することによる景気押し下げ効果、いわゆる「財政の崖」も影響している(コラム「遅れる米コロナ追加対策と浮上するFRBへの期待」、2020年9月16日)。現時点では、民主党と共和党・トランプ政権との間で、追加経済対策で合意する兆しは全く見られず、その実現は大統領選挙後にずれ込む公算が高まっている。

大きく遅れる雇用の回復

ウォール・ストリート・ジャーナル紙のエコノミスト調査によると、回答者の6割弱は、2021年に実質GDPがコロナショック以前の2019年10-12月期の水準を取り戻すと予想している。他方で、回答者の半数以上は、雇用者数がコロナショック以前の水準を取り戻すのは、2023年かそれ以降になると予想している。半年前の調査に比べ、予想される雇用回復の時期が一段と後ずれしている。GDPに対して、雇用の回復が相当遅れるとの見方が支配的だ。

その結果、一部の人は失職状態が長く続き、米国で所得格差が拡大する原因を作ることになる。情報関連や管理業務、プロフェッショナル向けのサービスといったホワイトカラー産業の大半については、雇用は年内にもコロナショック以前の水準に戻ると見られている一方、資格が少なく賃金も低い労働者は、失った職を取り戻すまでにかなりの時間がかかるだろう。

企業についても、デジタル経済や家庭用必需品の供給に関連する企業、テクノロジーが進んだ西部都市部の企業は早期の業績を取り戻すと見られる一方、旧来産業の企業、観光や人が集まることで経済が回っていた地域の企業は、コロナショックの影響が長引くと予想されている。

米国経済は格差拡大を伴う「K字型」回復

このように、労働者、企業の大きな格差を伴う形での米国経済の回復は、格差、あるいは分岐を示す形の「K字型」回復と呼ばれる。先般の大統領選挙に向けた大統領候補者の第1回TV討論会では、民主党のバイデン候補は、トランプ政権下で実施された法人減税、所得減税が、コロナ下での格差を一段と拡大させた、とトランプ大統領を批判した。

また、格差は資産価格の上昇によってももたらされている。米連邦準備制度理事会(FRB)の統計によると、4-6月期の家計の純資産は119兆ドルと、前期から6.8%増加し、昨年10-12月期に記録した過去最高水準を早くも上回った。さらに、足もとのダウ平均株価は、6月末の水準から10%超上昇していること、また不動産価格も上昇していることから、家計純資産額は今では一段と膨らんでいる可能性が高い。

ピュー・リサーチ・センターによると、株式を保有しているのは米国世帯の半分を若干上回る程度だ。その中で、年収3万5,000ドル未満の世帯の株式保有率は2割未満であるのに対して、年収10万ドル以上の世帯になると、ほぼ9割にも達している。また、株式を保有している貧困および中流世帯では、その保有額は少ない傾向がある。

貧困層の世帯は、コロナショックで所得面から大きな打撃を受ける一方、株価上昇から受ける恩恵は小さい。これに対して、富裕者層は、コロナショックで所得面から受ける打撃は小さい一方、株価上昇から受ける恩恵は大きいのである。

株価上昇は大統領選挙にどう影響するか

コロナショックによる米国経済の悪化や、その回復力の弱さは、大統領選挙では現職のトランプ大統領に不利に働く。他方で、株価上昇については両面あるだろう。株価上昇は株式を多く保有する富裕者層の支持を強める方向に働く。また、株価上昇が先行きの景気回復を示唆しているとの見方が広がる場合には、トランプ大統領はより幅広い支持を得やすくなる可能性もあるだろう。

しかし、株価上昇が米国民の資産・所得格差拡大という問題をよりクローズアップさせる場合には、トランプ大統領に不利に働くことになる。経済環境が不透明な中で上昇を続ける株価の影響がどちらに出てくるかは、民主党のバイデン候補が、選挙までの残り3週間のうちにこの問題をどの程度国民にアピールできるかにかかっている。

(参考資料)
"The Covid Economy Carves Deep Divide Between Haves and Have-Nots", Wal Street Journal, October 6, 2020
"Surge in Wealth May Lead to Complacency on Economy", Wal Street Journal, September 23, 2020
"WSJ Survey: 43% of Economists Don’t See U.S. Gaining Back Lost Jobs Until 2023", October 9, 2020

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