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IMFの最新世界経済見通し:各国に求められる難度の高い経済政策運営

2020/10/15

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2020年成長率予測は上方修正も先行き慎重な見方は変わらず

国際通貨基金(IMF)は、10月13日に最新の世界経済見通しを発表した。2020年の成長率見通しは前回6月時点から上方修正されたが、それはごく足もとの状況を反映した修正に過ぎず、先行きの慎重な見通しは変わっていない。

今回は中期的な経済展望も示されたが、コロナショックによって生産性上昇率が低下するリスクが相応にあることを指摘するなど、コロナショックから世界経済が受ける痛みはかなり長引く、との見通しが示されている。

IMFによる2020年の世界経済見通しは-4.4%と、6月時点から0.8%ポイントの上方修正となった。また、日本の2020年成長率見通しは-5.3%と、6月時点の前回見通しから0.5%ポイント上方修正された。他方で、来年2021年の世界経済の見通しは+5.2%と6月時点から0.2%ポイント下方修正されている。先行きの経済回復のモメンタムは、前回調査から高まったとはIMFは判断していないのである。

2020年成長率見通しを上方修正した理由を、IMFは次の3つとしている。第1に、主要先進国における第2四半期GDPの成長率が事前に予測されたほどのマイナス幅とならなかったこと、第2に、中国における成長回復が予想以上に強いこと、そして第3に、第3四半期に景気回復が加速する兆候が見られること、である。世界経済の中で、中国経済は独り勝ちの様相を呈している感がある。

潜在成長率低下のリスクは小さくない

今回、IMFは中期経済見通しも発表している。世界経済の成長率は2021年に+5.2%と上昇が見込まれるが、その後は徐々に減速し、中期的には約+3.5%になると予想されている。中期的成長率が低水準にとどまることは、格差の拡大と貧困問題を再び浮上させる。さらに、低成長は政府の税収を減少させることを通じて、政府債務問題をより深刻化させる。

コロナショック後の世界の潜在成長率が低下することをIMFは予想しているが、それは以下のような要因によるものだ。危機を生き延びた企業が職場の安全性向上に取り組むなかで発生する調整コストや生産性への悪影響、企業倒産による経済ショックの増大、コストのかかる産業部門間の資源再配分、働く意欲を失った労働者の労働市場からの退出、などである。

各国政府は生産性上昇率や潜在成長率ができるだけ下がらないよう、あるいは向上させるような政策に注力することが求められる。

コロナショックによって打撃を受けた企業、雇用への支援を行っているのが、各国政府の現状である。しかし、回復が確固たるものとなった時点では、長期間にわたって活動が制約される可能性が高い、人と人との接触の多い産業部門、例えば旅行業から、接触の機会が少なく成長のポテンシャルが大きい部門、例えばeコマースなどへ、生産資源が移転することを政府が支援することが求められる。

それが生産性を向上させることになるだろう。具体的な手段は、労働者の再教育、再訓練を可能な範囲で実施し、他業種での求職活動を支援するようなことだ。

適切な時期を踏まえた政策転換が求められる

ただし、こうした生産資源の移転には時間がかかる。仕事を失った労働者には再教育や求職期間の間、長きにわたって所得支援を実施する必要があるかもしれない。こうした対策を補完するものとして、政策余地がある国では、広範囲にわたる緩和的な金融および財政政策も検討されるべきとIMFは指摘する。

また、企業、雇用者を金銭面から支援する政策は、感染リスクの低下、経済活動の再開と共に必要性が低下するが、IMFは、そこで浮いた財源の一部を、公共投資に振り向けるべきだとする。対象となるのは、再生可能エネルギー、送電網の効率改善、建物のカーボンフットプリント(炭素排出量)を抑えるための改修、などである。

各国政府には、コロナショックで傷ついた企業、雇用を支援する政策から、産業構造転換を促し、生産性を向上させる、あるいはその悪化をできるだけ食い止める施策の双方を実施するという、難度の高い対応が求められる。重要なのは前者から後者へと政策の比重を移していくタイミングである。それは、感染リスクが低下し、経済活動が正常化できる時期で判断されるだろう。

そのタイミングの読みを誤れば、失業の急増、生産性上昇率の大幅低下、政府債務の急増など、深刻な事態を招きかねないのである。コロナ対策の難易度が高まっていくのは、まさにこれからである。

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