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G20の低所得国債務への対応でも中国問題

2020/10/16

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低所得国債務問題への対応は優先課題

13日のG7(主要7か国)財務相・中央銀行総裁会議に続き、14日にはG20(主要20か国・地域)財務相・中央銀行総裁会議が、テレビ会議方式で開かれた。そこで最大の議題となったのは、低所得国債務問題である。

今年年末までとされていた主要国による低所得国債務の支払い猶予措置を、2021年半ばまで半年延長することでG20は合意した。また将来、返済猶予を超える債務措置が必要となり得ることを認識し、「共通枠組」の合意、発表を目指すとしている。返済猶予を超える債務措置、共通枠組とは、債務免除を意味するのだろう。

低所得国債務問題への対応は、コロナ下での先進国の優先課題だ。財政環境が脆弱な低所得国が債務返済に財政資金を回さざるを得ないことで、コロナ対策に十分な財政資金を投じられなくなれば、感染の爆発的な拡大を招いてしまう。それは、先進国での感染リスクも高めることになるだろう。

また、低所得国が対外債務の返済に行き詰まり、デフォルト(債務不履行)に陥るリスクが高まれば、当該国に通貨危機を伴う経済の混乱を引き起こすとともに、世界の金融市場にも大きな動揺を与える可能性があるのだ。

中国と民間債権者が債務問題への対応で障害に

しかし、事前には低所得国債務の支払い猶予措置の1年間の延長が検討されている、と報じられていたことを踏まえると、議論がやや後退した感がある(2021年春にさらなる6か月の延長の必要性を検討するとしているが)。現在の枠組みの下での1年間の延長に、中国が慎重な姿勢を示した可能性も考えられる。

従来の主要国による低所得国債務問題への対応は、先進国からなるパリクラブで完結していた。しかし、近年、中国が低所得国に対して融資を拡大させたことから、低所得国債務問題への対応は中国を含めたG20が主導することになったのである。

先進国は、中国が低所得国向け融資の実態を十分に情報開示してないこと、国が100%出資する金融機関の低所得国向け融資を民間融資に分類し、今回の主要国による低所得国債務の支払い猶予スキームの対象外にしていること、などを批判している。中国が支払い猶予措置を十分に実施しない場合には、先進国の支払い猶予分が、中国への債務返済に使われてしまう可能性がある。

また、低所得国の間では、この返済猶予のスキームへの参加に慎重な国が少なくないことも、大きな課題である。G20が返済猶予の対象としている73か国のうち、返済猶予を申請したのは未だ44か国にとどまっている。返済猶予の申請をしない国が懸念しているのは、主要国によって債務返済猶予がなされた場合、それがデフォルトと理解され、民間からの追加の借り入れに支障が出ることである。

そのためG20は、民間債権者にも低所得国の債務返済猶予の枠組みに加わることを呼びかけているが、反応は鈍い。このように、中国と民間債権者がG20の低所得国債務問題への対応を難しくし、またその有効性を低下させてしまっているのである。

G20ではデジタル人民元の牽制はなし

ところで、今回のG20声明文では、フェイスブックが主導するデジタル通貨「リブラ」を念頭に、以下のような文言が示された。「我々は、いかなる所謂『グローバル・ステーブルコイン』も、関連するすべての法律上、規制上及び監視上の要件が、適切な設計と適用可能な基準の遵守を通して十分に対処されるまではサービスを開始するべきでないことを支持する」。

これは、13日のG7の共同声明と同じ内容である(コラム「G7がデジタル人民元を強く牽制」、2020年10月14日)。ところが、G7の共同声明では、中銀デジタル通貨については全く言及されていない点が注目される。

G7の共同声明に含まれたのは、中国が発行を計画する中銀デジタル通貨「デジタル人民元」を念頭に、その透明性の問題点などを指摘し、その計画を強く牽制するものだった。それがG20の共同声明に含まれなかったのは、中国が強く反対したか、あるいは先進国側が中国との対立を避けるために、それを控えたかのどちらかである。

いずれにしても、G7の牽制は中国のデジタル人民元構想に大きな影響を与えることはできないだろう。先進国にとっては、低所得国債務問題への対応、デジタル通貨への対応の双方で、中国の存在が大きな障害となっているのである。

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