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菅首相の所信表明演説と説明力

2020/10/23

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地球温暖化ガスの排出量目標が目玉に

26日に召集される臨時国会で、菅首相は初めての所信表明演説に臨む。その骨格が、各種報道により明らかになってきた。

演説では、地球温暖化ガスの排出量を「2050年に実質ゼロ」にするという目標が掲げられることが明らかとなっており、注目を集めている。政府は今まで「2050年に地球温暖化ガスを80%削減」と説明してきたが、実質ゼロとする時期は示してこなかった。

「2050年に実質ゼロ」とする目標は、地球温暖化防止の国際的な枠組みであるパリ協定で示された、「産業革命からの気温上昇を1.5度以内に抑える」という目標を実現するために必要な水準だ。

欧州連合(EU)は、2019年に「2050年に実質ゼロ」の目標を既に掲げている。また、米国ではトランプ政権はパリ協定からの離脱を決めたが、大統領選挙で民主党のバイデン氏が勝利すれば、パリ協定に復帰し、環境問題に積極的に取り組むことが予想される。さらに中国も今年9月に、「2060年に実質ゼロ」とする目標を掲げている。

このままでは、日本の環境対策の消極的な姿勢が世界で際立ち、一段と批判を浴びる可能性があった。今回の新たな目標は、そうした事態への対応だ。排出量の削減が、企業にとって専らコストとなるばかりでなく、技術革新を伴う形で新たな需要を創出する形へと政府が誘導していくことが重要だろう。

携帯電話料金の引き下げなど競争政策は、本来は公正取引委員会の役割

報道を見る限り、それ以外では特段新しい政策の提案がない模様だ。菅首相は、安倍政権の経済政策の継承を新ためて強調するとともに、行政の縦割り、既得権益、悪しき前例主義を打破し、規制改革の重要性を説くと見られる。具体策としては、2021年のデジタル庁設立、行政手続きなどの押印廃止、マイナンバーカードと健康保険証の一体化、最低賃金引上げ、不妊治療の保険適用、携帯電話料金の引き下げなど、従来からの主張が繰り返される見通しである。

菅政権の経済政策は、しばしば「規制改革」として総括されるが、携帯電話料金の引き下げなどは、規制改革とは逆に政府が市場に積極的に介入することで競争条件を高め消費者の利益を高める、「競争政策」だ。ただし、それを担うのは通常では公正取引委員会である。携帯電話料金の議論も、公正取引委員会が主導するのが本来の姿なのではないか。

狙いや手段について多くを語らない菅首相

携帯電話料金の引き下げは、確かに国民からは支持されやすいテーマではあるが、それが行き過ぎれば、通信会社の投資が過度に抑制され、利用者へのサービスの質の低下につながってしまうリスクもある。携帯電話は既に生活に欠かすことができない重要なインフラとなっているため、そのような事態を招かないような配慮が政府には必要だろう。

また、どのような手段を用いて携帯電話料金の引き下げを目指すのかについて、菅政権はその考えを明らかにしていない。その結果、様々な疑心暗鬼が生まれてしまっているように見受けられる。

これは、中小企業再編、地銀再編等の他のテーマについても言えることだ。問題提起はするが、その狙いや具体的な手段について、菅首相は多くを語らない。そのため、様々な憶測が生じやすくなっている。

柱となるような政策については、国民に対してもっと丁寧な説明が必要なのではないか。所信表明演説は、まさにそれに適した機会だ。

「グランドデザイン」を示すべき

また、経済施策のテーマについては具体的に語る一方、それらを通じて日本経済をどのような姿に変えることを目指すのか、といった「グランドデザイン」が示されていないことも、菅政権の特徴ではないか。

具体的な中身を欠く理念、総論だけでは駄目だが、各論だけでも良くない。双方が示すことで、政権が打ち出している個々の政策が、最終的にどのような目的を実現するために設定されているのかを、国民に丁寧に説明すべきではないか。安倍政権の継承に終わらない長期政権を目指すのであれば、この「グランドデザイン」は欠かせないのではないか。それを通じて、経済政策に対する国民の理解と支持を高めることができるだろう。

一例ではあるが、「デジタル化推進」、「規制改革」、「競争政策」の3者を進め、それぞれの相乗効果を最大限高めることを通じて、日本経済の潜在力を再生させる、といった説明が所信表明演説で示されても良いのではないか。

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