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日銀金融政策決定会合の注目点:物価下落への対応がいずれ焦点に

2020/10/28

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Go Toトラベル事業が物価見通しの引き下げに

日本銀行は10月28・29日に金融政策決定会合を開く。追加金融緩和策実施などの政策変更は、引き続き見送られる可能性が高い。他方、今回の会合では展望レポートが示される。そこでは、2020年度の成長率・物価見通しと共に、下方修正されることが見込まれる。特に、前回7月の展望レポートで前年度比-0.5%(中央値)としていた物価見通しは、下方修正される可能性が高い。

その最大の理由は、政府の観光支援事業「Go Toトラベル」の影響だ。政府が宿泊代などを補助し、消費者の支払い分が減ると、それは消費者物価の押し下げ要因となる。9月の消費者物価統計(CPI)で、宿泊料は前年同月比で30%下落し、生鮮食品を除くコアCPIを前年同月比で0.35%押し下げていた。9月のコアCPIは前年同月比-0.3%であったが、Go Toトラベルの影響を除けばわずかにプラスだったと考えられる。10月にはGo Toトラベルに東京が加わったことで、宿泊料のコアCPI押し下げ効果は、さらに高まるはずだ。

日本銀行は、Go Toトラベルの物価押し下げ効果は一時的で、物価の基調には影響しない、と説明するだろう。この点から、一定の前提の下でGo Toトラベルの影響を試算し、それを除いた消費者物価見通しを、より基調的な物価の見通しとして新たに示す可能性もあるのではないか。

具体的には、既に参考値として示している「消費税率引き上げ・教育無償化政策の影響を除くケース」を「消費税率引き上げ・教育無償化政策・Go Toトラベルの影響を除くケース」へと修正するものだ。

2%の物価目標の達成よりもデフレ回避

ただし、物価見通しに下方修正を迫る要因は、このGo Toトラベルに限らない。いずれ、携帯の通話料金引き下げもそれに加わってくるだろう。

さらに、景気の悪化を受けた価格の下振れ傾向は、既に広範囲に見られるようになってきた。コロナショックが発生した当初には、供給制約、コロナ対策によるコスト上昇、財政赤字拡大などの要因から、物価上昇率が高まるとの見通しを示す向きもあった。しかし実際には、コロナショックをきっかけに、多くの国では物価上昇率の下振れ傾向が強まっているように思われる。

日本銀行の推計によると、2020年4-6月期の需給ギャップは前期から一気に5%ポイント悪化した。これは、半年から1年先の物価上昇率を1.2%押し下げる計算となる。コロナショックによる物価の下振れ傾向は、むしろこれから本格的に表れるだろう。

そうした中、日本銀行の展望レポートでは、2020年度に続いて、2021年度の物価見通し(中央値)も、来年1月の次回展望レポートではマイナスに下方修正されるのではないか。

その際には、「日本銀行が2%の物価目標の達成ではなく、デフレ回避を目指して新たな政策を検討すべき」といった議論が、政府を巻き込んで高まる可能性があるのではないか。

ただしそうした場合でも、日本銀行は追加緩和策で拙速な対応をすべきではないと筆者は考える。有効な金融緩和手段は、もう残されていないのである。

金融支援特別オペ延長の可能性

10月28・29日の金融政策決定会合のもう一つの注目点は、金融緩和策とは位置付けられないが、新型コロナウイルス対応の金融支援特別オペの枠組みを微修正する可能性だ。このオペでは、金融機関は6か月間日本銀行から資金を借りられるが、それは実質0.1%のマイナス金利という好条件である。

10月22日に実施された同オペでは、貸付額が2.8兆円と前回9月の10.0兆円から大きく低下した。これには、金融支援特別オペの実施期限が来年3月末まで、となっていることが影響していると見られる。10月のオペで銀行が半年間の資金を調達すると、それが期限を迎えた時点では、金融支援特別オペが既に失効していて、よりコスト高のプラス金利で借り換え(ロールオーバー)なくてはならなくなる可能性がある。そのため、3月末を超えた今回の資金の調達を、銀行が控えたとも考えられる。

このような事情から金融支援特別オペの利用が控えられると、日本銀行の政策効果が薄れると解釈されてしまう。そのため今回の会合で、来年3月末までとなっている期限を半年程度延長すること等も検討されるのではないか。

金融支援特別オペの期限延長と共に、金融機関から要望が出ている、半年という貸出期間の長期化や、担保不足に対応するための担保要件の緩和、なども決定会合では検討課題となるかもしれない。

日本銀行は一時棚上げしている2%の物価目標をどうするのか

ただし、金融支援特別オペの利用が減ってきた背景には、その前提となる、コロナ対応の企業向け貸出増加額が、既にピークを越えてきたことの影響もあるのではないか。

コロナショック後の日本銀行は、2%の物価目標を一時的に棚上げして、政府の特別融資制度に寄り添う形で、企業・雇用の支援策を続けてきた。そうした特別な危機対応をしている限りは、日本銀行は2%の物価目標が達成できないことへの批判などを浴びることもなかったのである。この点から、日本銀行にとっては、居心地の良い状況が続いてきた面もある、と言えるのではないか。

しかし、こうした流動性供給の危機対応が一巡してくる一方、既に見たように物価上昇率の下振れ傾向はより強まってきている。そうした下で、一時棚上げしていた2%の物価目標の扱いをどうするのか、デフレ回避のために追加的な金融緩和を実施すべきかどうか、など、日本銀行は再び大きな政策判断を求められる、より厳しい局面に入りつつあるのではないか。

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